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Q. 遺留分と寄与分の関係が問題になる3つの場面とは?裁判例を踏まえて解説
2023年9月25日更新
遺留分と寄与分について
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人が相続できる最低限の取り分のことで、被相続人の死後の相続人の生活を保障するための制度です。一方、寄与分とは、相続人の寄与により遺産が維持形成された場合に寄与した者に一定の遺産を優先的に分配し、相続人間の公平を図るための制度です。
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遺留分と寄与分の関係が問題になる場面とは?
遺留分と寄与分の関係が問題になる場面は以下の3つです。
- 遺留分を侵害する寄与分を定めることが出来るか?
- 遺留分遺留分侵害額請求に対して寄与分を主張できるか?
- 寄与分に対して遺留分侵害額請求は可能か?
それぞれ異なる論点がありますが、以下では、遺留分を侵害する寄与分を認めることが出来るか?を中心に、裁判例を踏まえながら解説いたします。
遺留分を害する寄与分を定めることができるか?
(1)東京高裁平成3年12月24日決定
東京高裁平成3年12月24日決定が、遺留分を侵害する寄与分の定めについて判断しています。
【事案の概要】
原審判で、長男が農家の跡取りとして被相続人の農業の手伝いや被相続人の療養看護をしてきたことから、長男に相続財産の7割にあたる寄与分が認定されました。そのため、長女は長男の寄与分の認定が不当であること等を理由に原審判に対し不服申し立てを行いました。その不服申し立てに対する決定が東京平成3年12月24日決定です。
相続人:子4名
相続財産:約5465万円
長女の遺留分:相続財産の12.5%にあたる約683万
長女が取得した相続財産の価額:相続財産の約7.65%にあたる約418万円
侵害された遺留分:相続財産の約4.85%にあたる約265万円
相続財産の約4.85%にあたる約265万円が原審判が認定した寄与分によって侵害された遺留分ということになります。
【判旨】 「寄与分の制度は、相続人間の衝平を図るために設けられた制度であるから、遺留分によって当然に制限されるものではない。しかし、民法が、兄弟姉妹以外の相続人について遺留分の制度を設け、これを侵害する遺贈及び生前贈与については遺留分権利者及びその承継人に減殺請求権を認めている(一〇三一条)一方、寄与分について、家庭裁判所は寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める旨規定していること(九〇四条の二第二項)を併せ考慮すれば、裁判所が寄与分を定めるにあたっては、他の相続人の遺留分についても考慮すべきは当然である。確かに、寄与分については法文の上で上限の定めがないが、だからといって、これを定めるにあたって他の相続人の遺留分を考慮しなくてよいということにはならない。むしろ、先に述べたような理由から、寄与分を定めるにあたっては、これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないというべきである。」 |
【解説】
この決定は、「寄与分の制度は、相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから、遺留分によって当然に制限されるものではない」と判断し、遺留分を侵害する寄与分を定めることが可能であることを認めました。ただし、寄与分を定める際、他の相続人の遺留分を侵害することになるかどうかについても考慮しなければならない旨の判断をしています。その理由は以下の通りです。
- 民法が遺留分を侵害する遺贈及び生前贈与については遺留分権利者及びその承継人に遺留分減殺請求権を認めていること(*改正により遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権になりました。)
- 寄与分について家庭裁判所は寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める旨規定していること
- 寄与分について上限の定めがないからといって、寄与分を定めるにあたって他の相続人の遺留分を考慮しなくてよいということにはならないこと
この決定はさらに進んで、家業である農業を続け、農地などの維持管理に努めたり、被相続人の療養看護にあたったというだけでは、長女の遺留分を大きく侵害する寄与分の定めをするのは相当ではなく、さらに特別の寄与をした等特段の事情がなければならない旨の判断をし、原審判はそのような点を考慮していないとして、原審判を取消し、本件を差し戻しました。
上記裁判例を踏まえると、遺留分を侵害する寄与分を主張する場合は、侵害の大きさも考慮した上でそれでもなお主張する寄与分を認めるべき事情があることを説得的に主張すべきと考えられます。
(2)和歌山家裁昭和59年1月25日審判
上記裁判例と異なり、和歌山家裁昭和59年1月25日審判は、遺留分を侵害する寄与分を認めており、参考になるため紹介します。
【事実関係】
相続人:妻、先妻との間の長男及び長女
相続財産:1595万円
長男及び長女それぞれの遺留分:相続財産の12.5%にあたる約200万円
長女及び長女がそれぞれ取得した相続財産の価額:相続財産の約4.5%にあたる約70万円
侵害された遺留分:相続財産の約8%にあたる約130万円
東京高裁平成3年12月24日決定の事案と比べると、遺留分を侵害する割合は大きくなっていますが、金額自体は低くなっています。ただ、約130万円という金額自体、低くはありません。そのため、東京高裁平成3年12月24日決定を踏まえると、このような寄与分を定めるには特段の事情が必要と考えられます。
この審判は寄与分を定めるにあたって下記の事情を指摘しています。
【裁判所が指摘した事情】
- 被相続人と婚姻する際に、妻は教師を退職し、退職金を持参したこと。
- しかし、その後まもなく被相続人が病気休職したので就職をして働き続けその収入等によって1500万円程度の住宅購入資金を作ったこと。
- 被相続人と相談をして宅地・住宅の代金の90.6%相当を妻が提供し、被相続人名義の宅地・住宅を購入したこと。
- 宅地・住宅の評価額の90.6%は相続財産全体の82.3%に相当すること。
この事情からすると、被相続人名義の宅地・住宅は実質的には被相続人9.4%、妻90.6%の共有とみることもできます。妻が共有持分権を確認する訴訟を提起し認められれば、妻の共有持分90.6%は妻の財産であって、被相続人の財産ではないことになります。そのため、宅地・住宅の90.6%に相当する寄与分を妻に認めることが相続人間の公平に適うといえ、特段の事情があると考えられます。
遺留分侵害額請求に対する寄与分の主張の可否について
条文上、遺留分制度で寄与分は考慮されておらず、遺留分侵害額請求に対する寄与分の主張は認められません。実際、東京高裁平成3年7月30日判決でも、遺留侵害額請求訴訟において寄与分を抗弁として主張することは認められない旨の判断がされています。
寄与分に対して遺留分侵害額請求は可能か?
条文上、遺留分制度で寄与分は考慮されていないため、寄与分に対して遺留分侵害額請求をすることもできません。
まとめ
以上、遺留分と寄与分の関係が問題となる3つの場面について解説いたしました。特に、遺留分を侵害する寄与分が認められるケースについては、裁判所は様々な背景事情を認定していますので、参考にすると良いでしょう。もっとも、遺留分を侵害する寄与分が認定されることは極めて稀なケースですので、そのような寄与分を主張する場合は、弁護士に相談することをお勧めいたします。
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【記事監修者】 白土文也法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 当事務所が最も注力する分野は遺産相続問題です。 遺産分割、遺留分侵害額請求、相続放棄、遺言書作成、家族信託、事業承継など遺産相続に関わる問題全般に対応しております。 相談件数の半分以上を相続問題が占めており、所属弁護士5名全員が、日々、相続に関して研鑽を積んでおります。是非、ご相談ください。 弁護士のプロフィールはこちら |
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