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Q. 【裁判例の紹介】生命保険金(死亡保険金)は遺産分割の特別受益に該当するのか?

2023年8月12日更新

特定の相続人が相続財産以外に多額の生命保険金(死亡保険金)を受け取っていて不公平だというご相談を受けることがあります。このような場合、生命保険金(死亡保険金)も含めて遺産分割は可能なのでしょうか?

この記事では、どのような場合に生命保険金(死亡保険金)が遺産分割の際に考慮されるのか、裁判例を紹介しながら解説いたします。なお、厳密には、生命保険金と死亡保険金は異なる用語ですが、以下では、単に「生命保険金」として解説いたします(ただし、判例で用いられている用語はそのまま引用しています)。

(関連記事)「Q. 遺産分割における特別受益とは?特別受益の具体例を解説

生命保険金は相続財産ではない

相続が発生すると、亡くなった方が被保険者として加入していた生命保険について死亡保険金の受取りが可能となります。相続人が受取人である場合、この生命保険金は、相続人が受取人固有の権利で請求するものであるため、相続財産ではありません。最高裁判例でもそのように判断されています。

【最高裁平成16年10月29日決定】

「被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人と指定して締結した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は、その保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産に属するものではないというべきである」

生命保険金が特別受益に準じて持ち戻しの対象になる場合【最高裁平成16年10月29日決定を解説】

上記のとおり、生命保険金は相続財産ではなく、遺産分割の対象となりません。では、遺産分割の際に全く考慮されないのでしょうか。実は、例外的に生命保険金が遺産分割の際に特別受益に準じて考慮される場合があります。この点について、最高裁平成16年10月29日決定において判断の枠組みが示されています。

【事案の概要】

AおよびBの共同相続人が、他の共同相続人である相手方に対し、相手方が受領したAおよびBを保険契約者・被保険者とする養老保険金及び養老生命共済契約に係る死亡保険金が特別受益に該当するとして遺産分割を申し立てた事案。

(要するに、被相続人が亡くなったことで一人の相続人だけが生命保険金を受け取ったが、それは不公平なので、他の相続人らが、生命保険金も遺産分割の中で考慮すべきと主張した事案です)

【決定要旨】

「被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈または贈与に係る財産には当たらないが、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる。」

【解説】

兄弟の1人のみが両親の生命保険金を受け取った場合に、他の相続人は「1人だけ生命保険金を受け取るなんて不公平だ!」と思うこともあるでしょう。今回の事案は、まさに、生命保険金を受け取っていない相続人らが、生命保険金を受け取った相続人を相手方に、保険金も含め遺産を皆で公平に分け合う遺産分割を行いたい、と申し出たという状況です。

相続人の1人が、亡くなった方から特別受益に当たる利益を受け取っていた場合、計算上この受益も含めた遺産分割がなされます(これを特別受益の持ち戻しといいます。)が、先に述べたとおり、生命保険金は受取人固有の権利であるため、原則として持ち戻しの対象にはなりません。紹介した判例においても、「相続人が取得する死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈または贈与に係る財産(=特別受益)には当たらない」ことが原則であると示されています。

その上で、上記判例は、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が著しい場合には例外的に特別受益に準じて持戻し(計算上、相続財産に特別受益に当たる額を加算してから、遺産分割を行う)の対象とすることができる」という判断枠組みを最高裁として初めて示しました。

特別受益の持ち戻しは、相続人間の不公平を是正するための機能を持つものであり、生命保険金を受け取った相続人と他の相続人の間に著しい不公平が生じる場合には、この不公平を是正するために、本来特別受益に当たらない生命保険金を「特別受益に準ずるもの」とし、計算上生命保険金を含めて遺産分割を行うことができるとしました。

なお、上記最高裁決定の事案では、他の相続財産の遺産分割の状況や、生命保険金を受け取った相続人は両親と同居をし、両親の世話をしていたといった事情から、生命保険金を受け取っていない相続人との間に著しい不公平が生じているとまでは言えないため、生命保険金を特別受益に準じて持ち戻すことは認められませんでした。

生命保険金の特別受益該当性に関する下級審判例

上記最高裁決定を受け、下級審でも同様の判断枠組みに沿って、生命保険金を例外的に特別受益に準じた持ち戻しの対象とすることができるか判断されています。

(1)東京高裁平成17年10月27日決定

この決定は、「相続人の1人であるXが生命保険の受取人になり、その保険金を受領したことによって遺産の総額に匹敵する巨額の利益を得ており、受取人が変更された時期やその当時Xが被相続人と同居しておらず、被相続人の扶養や療養介護を託するといった明確な意図のもとに上記変更がされたと認めることも困難であることなどからすると、保険金受取人であるXとその他の共同相続人との間に生ずる不公平が到底是認することができないほどに著しいと評価する特段の事情が認められる」として、Xが受け取った生命保険金は特別受益に準じて持ち戻しの対象とされました。

(2)名古屋高裁平成18年3月27日決定

この決定は、「保険金受取人とされた妻が取得する死亡保険金等の合計額が約5200万円とかなり高額で、相続開始時の遺産価格の約61%を占めること、被相続人と妻との婚姻期間が3年5か月程度であることなどを総合的に考慮すると、保険金受取人である妻とその他の相続人との間に生ずる不公平が到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する」として生命保険金等を特別受益に準じて持ち戻しの対象とすることが認められました。

【広島高裁令和4年2月25日決定】生命保険と特別受益に関する注目の裁判例

紹介した(1)東京高裁平成17年10月27日決定、(2)名古屋高裁平成年17年3月27日決定は、相続開始時の相続財産の総額に対する生命保険金の割合が(1)では約99%、(2)では約61%と高いものでした。そのため、実務上は生命保険金を特別受益に準じた持ち戻しの対象であると主張する際に「相続財産に対する保険金の額の割合」が重視されていました。

しかし、最新の高裁決定において、遺産に占める生命保険金の額が非常に大きいにもかかわらず、「不公平が著しい」とまでは評価できないとして特別受益に準じた持ち戻しが否定された事案があります。

【決定要旨】(広島高裁令和4年2月25日決定)

本件死亡保険金の遺産総額に対する割合は非常に大きいが被相続人と相手方との婚姻期間及び同居期間並びに被相続人と相手方の生計の状況などによれば、本件死亡保険金は、被相続人の死後、妻である相手方の生活を保障する趣旨のものであり、このことに加えて、本件死亡保険金の額が夫婦間の一般的な生命保険金額と比べてさほど高額なものとは言えないことや、相続人と被相続人との関係などの事情を踏まえると、相手方と抗告人との間に生ずる不公平が到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存するとは認められない。」

【解説】

本件において、生命保険金の総額は相続開始時の遺産総額の約272%にも上るものでした。この割合だけをみれば、生命保険金を受け取る相続人と他の相続人との間に著しい不公平が生じると思われます。ですが、裁判所は最高裁平成16年10月29日決定の判断枠組みに従い、生命保険金の額のみならず、同居の有無や生計の同一性といった当事者の関係、現在生活実態など諸般の事情を総合考慮し、著しい不公平は生じていないと判断しました。今後の実務で注意すべき裁判例と言えます。

まとめ

生命保険金を特別受益に準じた持ち戻しの対象として主張するためには、様々な証拠から「著しい不公平が生じていること」を立証しなければなりません。

専門的知識を持った弁護士であれば、どのような主張をすべきか、どのような証拠が必要になるかといった判断が可能ですので、一部の相続人だけが生命保険金を受け取っているため何とかできないか、とお悩みの際は弁護士に相談することをお勧めします。

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※遺産分割の詳しい解説は、遺産分割Q&Aをご参照ください。

【記事監修者】

白土文也法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや)  
第二東京弁護士会所属  中央大学法学部法律学科卒業

当事務所が最も注力する分野は遺産相続問題です。
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