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Q. 遺産分割の対象になる遺産、ならない遺産

2024年9月7日更新

相続財産・祭祀財産

【この記事の内容】

・遺産分割の対象になる遺産
・遺産分割の対象にならない遺産

遺産分割当事者の合意があれば遺産分割の対象にすることができるもの
・遺産分割当事者の合意があっても遺産分割の対象にすることができないもの

遺産には遺産分割の対象になるものと対象にならないものがあります。また、遺産分割の対象にならないものにはさらに、遺産分割の当事者の合意によって遺産分割の対象にすることができるものと合意があっても遺産分割の対象にすることができないものがあります。これらの区別は遺産分割をする上で重要なポイントですが、違いを理解せずに遺産分割が行われているのが実態だと思われます。この記事ではこれらの区別について具体例を示しながら解説いたします。

遺産分割の対象になる遺産

遺産分割の対象になるものは、遺産分割時に存在する未分割のプラスの遺産です。プラスの遺産とは、預貯金や不動産のように価値がある財産のことです。遺産分割の対象になるものの具体例は以下の通りです。

【具体例】

  • 預貯金
    以前は遺産分割の対象にならないとされていましたが、判例変更がされ、現在では遺産分割の対象になるため注意が必要です。詳細は下記の関連記事をご覧下さい。
  • 現金
  • 土地や建物などの不動産
  • 建物の賃借権や借地権
  • 家具や車などの動産
  • 株式
  • 投資信託
(関連記事)「Q. 遺産相続における預貯金の分け方

遺産でないものは遺産分割の対象にならない

そもそも遺産でないものは遺産分割の対象になりません。例えば、遺族給付、死亡退職金、契約者・被保険者が被相続人で受取人が相続人である生命保険金(死亡保険金)などは遺産でないため、遺産分割の対象になりません。遺産と遺産でないものの詳細な解説は下記の関連記事をご覧ください。

(関連記事)「Q. 遺産と遺産でないものの区別 基本から解説
(関連記事)「Q. 遺産(相続財産)の調査方法を解説

相続債務(マイナスの遺産)は遺産分割の対象にならない

被相続人の借金や生前に発生した未払いの家賃は相続債務であり、遺産分割の対象になりません。相続債務は、相続開始と同時に相続分に応じた割合で各相続人が承継します。

分割済みの遺産は遺産分割の対象にならない

遺産分割の対象財産は、共同相続人間で遺産が共有されている必要がありますが、下記のケースでは共有されていないため、遺産分割の対象とはなりません。

①相続開始と同時に法律上当然に分割されるもの
②遺言による承継された財産
③既に遺産分割が成立している財産

①の具体例
例えば、貸付金は可分債権として相続開始と同時に法律上当然に分割され、各相続人が相続分に応じて承継するため、遺産分割の対象になりません。

②の具体例
例えば、特定の遺産を遺贈する遺言や、特定の遺産を「相続させる」遺言がある場合、対象となった遺産は遺言により承継されるため遺産分割の対象になりません。

また、③遺産分割協議・調停・審判により既に分割された遺産は遺産分割の対象になりません。

遺産分割時に存在しない遺産は遺産分割の対象にならない

相続開始時にはあった遺産が、遺産分割時にはない場合があります。例えば、相続開始後に遺産である不動産を相続人全員で売却した場合や、遺産である不動産が天災で滅失した場合には、その不動産は遺産分割の対象になりません。

また、相続開始後に相続人の一部が処分してしまった遺産も原則として遺産分割の対象になりません。ただし、処分を行った相続人を除く相続人全員の同意によって、処分された遺産を遺産分割の対象にすることができます(民法906条の2)。

遺産分割の当事者の合意により遺産分割の対象にすることができるもの

これまで解説してきたように、遺産分割時に存在する未分割のプラスの遺産でないものは、遺産分割の対象にならないのが原則です。ただし、遺産分割の対象にならないもののなかには、遺産分割の当事者が遺産分割の対象にすることに合意することで、遺産分割の対象にすることができるものもあります。

例えば、貸付金は相続開始と同時に相続分に応じて法律上当然に分割されるため、本来遺産分割の対象になりません。しかし、遺産分割の当事者が遺産分割の対象にすることに合意することで遺産分割の対象とすることが可能です。また、相続開始後に遺産から生じた賃料は遺産ではないため、本来遺産分割の対象ではありませんが、合意することで遺産分割協議の中で誰が取得するか決めることが可能です。

合意があっても遺産分割の対象にならないもの

相続債務は当事者の合意があっても分割の対象になりません。各相続人が相続分に応じて負担することになります。ただし、協議や調停では、当事者の合意によって遺産である債務の負担について決めることは可能です。もっとも、債務の負担について決める場合には以下の点に注意する必要があります。

  • 債権者が了承しない限り、協議や調停で債務の負担について決めたことを債権者には主張できません。そのため、協議や調停で債務について合意をする場合には、事前に債権者の了承を得るべきです。
  • 相続債務は遺産分割の対象にならないため、債務の負担を含めて柔軟に解決するには審判ではなく協議や調停で解決する必要があります。

まとめ

以上、遺産分割の対象になる遺産とならない遺産について解説いたしました。適切に遺産分割を行うには、遺産分割の対象になる遺産を把握することが重要です。しかし、遺産分割の対象になるものとならないものを区別することは難しく、遺産分割協議を進める前に弁護士に相談することをお勧めします。


【記事監修者】

弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや)  
第二東京弁護士会所属  中央大学法学部法律学科卒業

【代表弁護士白土文也の活動実績】
・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信)
・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師
・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇
その他、取材・講演多数
  
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