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Q. 無償で不動産を借りていた方が亡くなった場合、返さないといけない?使用貸借の相続について解説
2024年10月30日更新
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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【この記事の内容】 ・借主が死亡すると相続人は使用貸借の借主の地位を相続するのか ・借主の相続人が借主の地位を相続した後に使用貸借が終了することも ・使用貸借と賃貸借は区別する必要がある |
亡くなった親が無償で借りていた(無償での貸し借りを使用貸借といいます。)不動産は返さなければならないのでしょうか?こういったお悩みをお持ちの方もいらっしゃいます。返す義務があるのに返さなかった場合には損害金を請求されるリスクもあるため、返す義務の有無を正確に判断したいところです。しかし、使用貸借の終了については明確なルールがあるわけではなく、個々の事例によって判断せざるを得ず、法律家であっても判断が難しいのが実情です。この記事では無償で不動産を借りていた方の相続人の立場について解説いたします。
借主が死亡すると相続人は使用貸借の借主の地位を相続するのか
借主の死亡時まで使用貸借が続いていれば、借主の相続人は借主の地位を相続します。借主の地位を相続した相続人は、借主の地位に基づいて借りた物を使用できるため、借りた物を返す義務はありません。
ところが、「使用貸借は、借主の死亡によって終了する。」と民法で規定されています(民法597条3項)。この条文が適用されると、借主の死亡時に使用貸借が終了しているため、借主の相続人は借りた物を使用できず、返さなければならないということになります。
もっとも、借主が死亡してもこの条文が必ずしも適用されるとは限りません。裁判例は個別的な事情を考慮して条文を適用するか否か判断しています。条文を適用しなかった裁判例をご紹介いたします。
東京地裁平成5年9月14日判決
この裁判例は、敷地上の建物を所有することを目的とする土地の使用貸借契約では、特段の事情のない限り、土地の返還時期は建物所有の用途にしたがってその使用を終えたときであり、借主が死亡しても使用貸借は当然には終了しない旨判断し、条文を適用しませんでした。
裁判例によると、敷地上の建物を所有することを目的とする土地の使用貸借契約では、特段の事情がない限り条文が適用されないことになるため、原則と例外が入れ替わるような形になることに注意が必要です。
東京高裁平成13年4月18日判決
この裁判例は、建物の使用貸借について、貸主と借主との間に実親子同然の関係があり、貸主が借主の家族と長年同居してきたような場合、貸主と借主の家族の間には、借主と借主本人との間と同様の特別な人的関係があるとして条文を適用しませんでした。
なお、借主が死亡しても使用貸借が終了しない旨の合意がある場合も条文は適用されません。もっとも、使用貸借は契約書がなく、かつ、当初の契約当事者である借主が既にいないために契約の内容が不明確なことが多く、このような合意が認められることはあまりありません。
使用貸借が終了するケースは他にもある
使用貸借が終了するケースには他にも様々なものがあります。例えば、目的にしたがった使用収益が終了すると使用貸借は終了します。そのため、借主の死亡時までに目的にしたがった使用収益が終了していた場合には、借主の地位は相続されないということになります。
使用貸借が終了するケースについては下記の関連記事をご確認ください。
借主の死亡時に使用貸借が終了している場合、相続人は借りた物を返す義務などを相続する
使用貸借が終了すると、借主は借りた物を返す義務だけでなく、借りた物に附属させたものを取り除く義務(収去義務) や、借りた物の原状回復義務を負います。借主の死亡までに使用貸借が終了していた場合、借主の相続人はこれらの義務などを相続することになります。借りた物を返す義務を負っているにもかかわらず借りた物を返さなかった場合には、使用料に相当する額の損害金を請求される可能性があるため特に注意が必要です。
借主が死亡すると借主の地位を相続することになるのか、借主の使用貸借終了時の権利義務を相続することになるのか判断することは難しい
借主の死亡時点で使用貸借が終了しているかどうかによって、相続人が借主の地位を相続するのか、使用貸借が終了した後の借主の権利義務を相続するのかが決まります。しかし、借主の死亡時点で使用貸借が終了しているかどうかを判断するには、様々な事情を検討する必要があり一般の方が判断することは難しいでしょう。使用貸借の借主の相続人になったものの、自分がどのような立場にあるのかがよくわからないという方は弁護士にご相談ください。
借主の相続人が借主の地位を相続した後に使用貸借が終了することも
借主の相続人が借主の地位を相続した後に使用貸借が終了することもあります。相続後に使用貸借が終了した場合も借りた物は返さなければなりません。例えば、借主の死亡時には目的にしたがった使用収益が終わっていなかったとしても、使用収益に足りるべき期間が経過していれば、貸主は使用貸借を解除し終了させることができます。使用貸借を解除すれば、使用貸借は終了します。
貸主が死亡した場合
借主の場合と同じように、貸主の死亡時点で使用貸借が終了しているかどうかによって、相続人が貸主の地位を相続するのか、使用貸借終了後の貸主の権利義務を相続するのかが決まります。なお、借主の場合と異なり、貸主が死亡しても使用貸借は当然には終了しません。そのため、貸主の相続人は貸主の地位を相続するケースが多くなります。
使用貸借が終了しているのか争いになることがある
貸主の相続人と借主との間や、貸主と借主の相続人との間には特別な人的関係がないこともあるため、相続が発生したことをきっかけに使用貸借が終了しているかどうかが争いになることがあります。また、被相続人から相続人の一人が土地や建物を無償で借りていた場合、他の相続人との間で遺産分割を行う場合に使用貸借の終了が問題になることも珍しくありません。相続後のトラブルを防止するには、契約書を作成し使用貸借の期限を定めておくという対策が有効です。何年間という形で定めても良いですし、借主が死亡するまでという形でも良いでしょう。
使用貸借と賃貸借は区別する必要がある
この記事は使用貸借契約について解説した記事です。使用貸借契約は借りていることに対する対価がない貸し借りで、賃貸借契約は対価がある貸し借りです。賃借権は使用借権よりも強い権利であり、この記事で解説したことはあてはまりません。そのため、使用貸借と賃貸借はしっかりと区別する必要があります。借主が金銭を支払っているケースであっても対価と評価できない場合には、賃貸借ではなく使用貸借になります。使用貸借と賃貸借の区別が難しいこともありますので、お悩みの方は弁護士までご相談下さい。
まとめ
以上、無償で不動産を借りていた方の相続人が置かれる立場について解説いたしました。使用貸借が終了しているかどうかを正確に判断するには、様々な事情を検討しなければならないこともあります。お悩みの方は弁護士までご相談下さい。
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