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Q. 配偶者居住権とは?相続法の改正により新しく制定された制度についてわかりやすく解説
2024年11月1日更新
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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【この記事の内容】 ・配偶者居住権の概要 ・配偶者居住権のメリット・デメリット ・配偶者居住権の活用が想定されるケース |
配偶者居住権が制定された経緯
平成25年9月に非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする民法の条文が憲法に反するという最高裁の決定が出され、非嫡出子と嫡出子の相続分を同じにする改正がされました。この改正をきっかけに相続法全体が見直され、配偶者居住権が制定されています。配偶者居住権は令和2年4月1日からスタートした新しい制度です。
配偶者居住権の概要
配偶者居住権とは、亡くなった方が所有していた建物に配偶者が居住していた場合に、配偶者がその建物を原則として終身の間これまでと同じように使うことができる権利です。配偶者居住権は、①遺贈、②死因贈与、③遺産分割により取得することができます。なお、亡くなった方が配偶者以外の方と建物を共有していた場合には配偶者居住権を取得することはできません。
遺言書での書き方
配偶者に特定の財産を与えたい場合、一般的には遺言書に「相続させる」と書きますが、配偶者に配偶者居住権を与えたい場合には、「遺贈する」と書きます。「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言と言います。)で配偶者居住権を与えることは認められていません。もし、「相続させる」旨の遺言を書いた場合、残された配偶者が配偶者居住権の取得を望まないときは、相続放棄をしてすべての財産を放棄するか、相続を承認して望まない配偶者居住権を含めたすべての財産を取得しなければならないことになるためです。「相続させる」と記載してしまった場合でも、「遺贈する」ものと解釈される場合もありますが、無用なリスクを避けるためには「遺贈する」と記載するべきです。
配偶者居住権を与える具体的な記載例は以下の通りです。
【記載例】 第〇条 遺言者は、遺言者の妻〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に、遺言者が所有する次の建物の配偶者居住権を遺贈する。 所在 〇市〇町〇丁目〇番地〇 家屋番号 〇番〇 種類 居宅 構造 〇 床面積 1階 〇〇.〇〇平方メートル 2階 〇〇.〇〇平方メートル |
配偶者居住権の評価
遺産分割における配偶者居住権の評価額は以下のように決まります。
①評価額について合意できる場合→合意金額
②評価方法について合意できる場合→その評価方法に基づき算出された額
③合意できない場合→鑑定額
鑑定実務上確立した評価方法はまだありませんが、日本不動産鑑定士協会連合会から研究報告として経済的利益還元法という評価方法が示されています。鑑定は経済的利益還元法に留意しつつ行われることになるでしょう。もっとも経済的利益還元法を用いた算定は専門家ではない方にとっては難しいでしょう。そこで、相続人間で協議する際には法制審議会で示された簡易な評価方法や相続税法上の評価方法が参考になります。国税庁が公開している配偶者居住権の評価明細書に必要事項を記入することで相続税法上の配偶者居住権の評価額を算出することも可能です。
配偶者居住権のメリット
(1) 配偶者居住権は建物所有権より評価額が低く、他の遺産を相続しやすい
相続人が配偶者と子1人、遺産が1000万円の建物所有権と1000万円の現金の場合を考えてみます。この場合、配偶者と子が遺産を2分の1ずつ相続することになるため、配偶者が建物所有権を相続する場合、以下の相続例①のように相続することになります。
【相続例①】
配偶者:建物所有権1000万円
子:現金1000万円
配偶者居住権は建物所有権よりも評価額が低くなります。配偶者居住権の評価額が500万円だとすると、配偶者居住権を設定した場合には以下の相続例②のように相続することができます。
【相続例②】
配偶者:配偶者居住権500万円 現金500万円
子:配偶者居住権の負担付きの建物所有権500万円 預金500万円
配偶者居住権と建物所有権の価格差の分、配偶者は他の遺産を相続できるということになります。ただし、配偶者居住権と所有権の価額差が少ない場合もあるため注意が必要です。
(2) 後継ぎ遺贈と同様の効果がある
例えば、終身の配偶者居住権の場合、配偶者が亡くなると配偶者居住権が消滅します。配偶者居住権が消滅すると、配偶者居住権の負担のない建物所有権になります。そのため、配偶者居住権には後継ぎ遺贈と同様の効果があり、配偶者が亡くなった後は、後継ぎに居住建物の完全な所有権を託すことができます。後継ぎ遺贈については下記の関連記事をご確認ください。
(関連記事)「準備中」 |
(3) 登記をすれば第三者に対抗できる。
使用貸借や負担付き相続で配偶者の居住権を確保した場合には登記ができませんが、配偶者居住権は登記をすることが可能です。登記をすることで、建物の所有権を譲り受けた第三者に対しても配偶者居住権を主張することができるようになります。
(4) 節税になる場合がある
配偶者居住権が配偶者の死亡や存続期間の満了により消滅すると、建物所有権は配偶者居住権の負担がなくなるため価値が上がりますが、価値の上昇分に相続税はかかりません。ただし、小規模宅地等の特例との関係で、配偶者居住権を設定しない方が節税になる場合もあります。節税になるケースとならないケースがあるため注意が必要です。
配偶者居住権のデメリット
(1) 配偶者居住権の譲渡はできない。
配偶者居住権は譲渡ができません。配偶者居住権を放棄することは可能ですが、放棄すると税金が発生する場合があります。
(2) 建物所有権と比べると建物の使用に制約がある
配偶者居住権では、例えば建物を従前の用法に従って使用収益をしなければなりませんし、所有者の承諾がないと増改築もできません。
配偶者居住権の活用が想定されるケース
配偶者居住権のメリットやデメリットを踏まえると、配偶者居住権の活用が想定されるケースとして以下のケースが考えられます。
- 配偶者の住居を確保したい
- 他の遺産も取得したい
- 居住建物の売却や譲渡を考えていない
- 配偶者が亡くなった後は、居住建物の完全な所有権を後継ぎに託したい
- 節税をしたい(ただし、かえって税金が増えるケースがあることに注意が必要です)
配偶者短期居住権との違い
配偶者短期居住権とは、配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合に、居住建物の所有権を相続または遺贈により取得した者に対し、一定期間その建物を無償で使用する権利のことです。
配偶者居住権との主な違いは以下の通りです。
- 配偶者短期居住権は要件を満たせば法律上当然に発生する
- 期間は最短6か月で、一時的な権利である
- 遺産分割でも、相続税法上でも、価額が0として扱われる
- 居住建物の使用に限られる
- 登記ができない
確実に配偶者居住権を設定したいなら遺言書を作成すべき
遺産分割協議・審判では、確実に配偶者居住権を設定できる保証はありません。確実に配偶者居住権を設定したい場合には、配偶者居住権を遺贈する内容の遺言書を作成する必要があります。配偶者に多くの遺産を遺したい場合には、配偶者居住権の遺贈を特別受益としない旨の定めについても検討が必要でしょう。また、遺言執行者がいると配偶者居住権の設定登記がスムーズにできるため、遺言書を作成する際には遺言執行者の定めも置くと良いでしょう。
まとめ
以上のとおり、配偶者居住権の活用には様々な注意すべき点があります。配偶者居住権でお悩みの方は弁護士にご相談ください。
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