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Q. 遺産と遺産でないものの区別 基本から解説
2024年9月4日更新
実は遺産と相続税の課税対象になる財産は範囲が異なります。また、遺産分割をするには遺産と遺産でないものの区別が必要です。遺産が漏れていた場合、まとまりかけていた遺産分割協議がやり直しになったり、一度成立した遺産分割が無効になったりするリスクもあります。ところが、遺産と遺産でないものを区別することは意外と難しいものです。そこで、この記事では遺産と遺産でないものの区別について具体例を示しながら解説いたします。
【この記事の内容】 ・遺産とは何か ・遺産ではないものの具体例 ・遺産の具体例 |
遺産(相続財産)とは
相続によって承継される財産のことを遺産(相続財産)といいます。原則として被相続人が死亡時に有していた財産が遺産になりますが、例外もあります。まずは例外から見ていきましょう。
遺産ではないもの
(1) 被相続人以外の者の財産
被相続人以外の者の財産は遺産ではありません。当然のようにも思えますが、紛らわしいものもあるため確認しておきましょう。
・遺族給付
遺族年金や未支給年金などの遺族給付(法律の規定に基づき死者と一定の関係にある者に対して支払われる給付金)は受給者の財産であり、遺産ではありません。
・死亡退職金
死亡退職金も一般的には受給者の財産であり、遺産ではありません。ただし、支給規定がない場合は、個別事情によっては功労報酬や賃金の後払いの性質が重視され、遺産と判断されることも考えられます。なお、死亡退職金を受け取る相続人とその他の相続人との間に不公平が生じる場合、特別受益として遺産分割の際に考慮されることがあります。
・生命保険金
契約者・被保険者が被相続人、受取人が相続人で、被相続人が亡くなった場合の生命保険金は、相続人の財産であり遺産ではありません。ただし、受取人が被相続人の場合は遺産になります。生命保険金は契約者、被保険者、受取人が誰なのかによって遺産になるか否かが決まるため注意が必要です。
なお、生命保険金を受け取る相続人とその他の相続人との間に不公平が生じる場合、特別受益として遺産分割の際に考慮されることがあります。
(2) 被相続人の死亡後に発生した財産
被相続人の死亡後に生じた賃料、配当などは、被相続人が死亡時に有していた財産ではないため遺産ではありません。なお、死亡前に生じていた賃料や配当などは遺産になります。
(3) その被相続人限りの権利義務
その被相続人限りの権利義務は相続の対象にならないため、遺産になりません。
(相続の一般的効力) 第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。 |
被相続人限りの権利義務の具体例は以下の通りです。
- 年金受給権
- 生活保護受給権
- 公営住宅の使用権
- 代理権
- 雇用契約上の地位
- 委任契約上の地位
- 使用貸借の借主の地位
借主が死亡すると使用貸借契約が終了するため、使用貸借の借主の地位は遺産になりませんが、例外的に使用貸借が終了せず使用貸借の借主の地位が遺産になる場合もあります。例えば、建物所有を目的とした土地の使用貸借の場合は、特段の事情がない限り、借主が死亡しても当然には使用貸借は終了しないと考えられています。
(4) 祭祀財産
祭祀財産は祭祀承継者が承継するものであり、遺産ではありません。祭祀財産には、家系図や祭具、墳墓の使用権、遺骨などがあります。
(祭祀に関する権利の承継) 第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。 |
遺産の具体例
被相続人が死亡時に有していた財産(マイナスの財産を含む)は原則として遺産になりますが、例外も少なくありません。遺産のイメージをつかむために遺産の具体例を以下に示します。
- 預貯金
- 現金
- 貸付金
- 土地や建物などの不動産
- 建物の賃借権や借地権
- 家具や車などの動産
- 株式
- 投資信託
遺産ではないが相続税の課税対象にはなる財産
遺産ではないが相続税の課税対象にはなる財産は、遺産分割を経ずに受け取ることができ、相続放棄をしても受け取ることが可能です。しかし、相続税に影響するため、遺産ではないものの相続税の課税対象となる財産の有無について確認する必要があります。以下に具体例を示しますが、相続税の申告については税理士に相談することをお勧めします。
- 被相続人が保険料を負担していた生命保険契約の死亡保険金
- 被相続人の死亡から3年以内に支給が確定した死亡退職金
- 相続、遺贈、相続時精算課税による贈与により財産を取得した人が、被相続人の死亡前3年以内に被相続人から暦年課税による贈与を受けた場合
法改正により相続税の課税対象になる期間が、死亡前3年から死亡前7年に延長されました。令和6年1月1日以降の贈与は延長の影響を受けます。 - 相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産
- 贈与の非課税制度を利用した際の残額
マイナスの財産も遺産
遺産といえばプラスの財産を思い浮かべる方も多いと思いますが、実はマイナスの財産も遺産に含まれます。そのため、マイナスの財産も相続の対象になります。
例えば、被相続人の借金や被相続人の生前に発生した未払いの家賃などの債務は遺産になります。他方で、例えば、遺産の管理費用(固定資産税や火災保険料など)といった被相続人の死亡後に発生する債務はマイナスの財産ではありますが、被相続人の死亡後に発生しているため遺産にはならず、相続の対象になりません。また、通常の保証債務は遺産になりますが、身元保証などの債務の内容が特定できない保証債務はその被相続人限りの債務であり、遺産にならず、相続の対象になりません。
相続放棄をするかしないか適切に判断するためには遺産になるマイナスの財産を把握することも重要です。
まとめ
以上、遺産とは何か、遺産と遺産でないものの区別について解説いたしました。遺産と遺産でないものを区別し、遺産の範囲を明らかにすることは遺産分割の前提ですが、遺産と遺産でないものの区別は意外と難しいため、遺産分割協議を進める前に弁護士に相談することをお勧めします。
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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