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Q. 法務局における自筆証書遺言保管制度の手続きやメリット・デメリットなどを解説
2024年1月13日更新
【この記事の内容】 ・自筆証書遺言保管制度のメリットとデメリット ・自筆証書遺言保管制度の手続き ・公正証書遺言がお勧め |
遺言を残すことで、あなたの想いを大切な人たちに伝えることができます。しかし、遺言書の作成方法は複数あり、それぞれにメリットとデメリットがあります。この記事では、令和2年7月にスタートした自筆証書遺言保管制度について、公正証書遺言と比較しながら解説いたします。あなたに最適な遺言の遺し方の一助になれば幸いです。
自筆証書遺言保管制度は、その名の通り、自筆証書遺言を法務局で保管してもらう制度です。令和2年7月10日からスタートした新しい制度で、この制度を利用することで、改ざんや紛失リスク、方式不備による遺言書の無効という自筆証書遺言の欠点を解消することができます。
自筆証書遺言保管制度のメリット
自筆証書遺言保管制度には以下のメリットがあります。
・改ざんや紛失リスクがない
自筆証書遺言保管制度では、法務局で遺言書の原本を保管するため、原本の改ざんや紛失リスクがありません。
・方式不備がないかチェックしてもらえる
法務局の職員が自筆証書遺言に方式不備がないかチェックしてくれます。そのため、方式不備が原因で遺言が無効になるリスクを回避できます。
・公正証書と比べて手数料が安い
公正証書遺言は、財産の価額に応じた手数料が必要です。例えば財産の価額が100万円以下の場合の手数料は16000円、1000万円の場合の手数料は28000円の手数料が必要です。また、遺言書の枚数に応じて数千円程度の手数料もかかります。財産が多ければ多いほど手数料も高額になります。それに対して、自筆証書遺言保管制度は、遺言書一通につき3900円の保管手数料で保管することが可能です。
・相続人や親族に遺言内容を知られずに作成・保管できる
自筆証書遺言保管制度では法務局の職員が遺言内容を知ることになりますが、相続人や親族には知られずに作成・保管が可能です。
・遺言者の死後、遺言書の保管の有無を確認できる。
遺言者の死後、相続人等は自筆証書遺言が法務局に保管されているか確認することが可能です。また、遺言者が希望した場合は、遺言書保管所が遺言者の死亡を確認できた時に通知対象とされた方に対して遺言書が保管されている旨のお知らせが届きます。
・検認が不要
自筆証書遺言保管制度を利用した場合、検認が不要になります。検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。自筆証書を作成したものの法務局に保管しなかった場合は、家庭裁判所に対して検認手続きをする必要があります。
自筆証書遺言保管制度を利用する場合の法務局での具体的な手続き
・遺言書の作成
民法で定められた自筆証書遺言の方式と、保管制度の様式を守って遺言書を作成します。保管制度の様式等が法務省のホームページにまとめてあります。参考にしながら作成しましょう。なお、作成した遺言書をホッチキスで閉じたり封をしないように注意が必要です。また、法務局に行く前に遺言書を作成しておかないと、予約時間内に手続が終わらずもう一度法務局に行くことになる場合があるため注意が必要です。
・保管申請書の作成
法務省のホームページにある保管申請書の様式を利用して保管申請書を作成します。
・法務局に保管申請の予約
以下のいずれかの法務局に保管申請の予約を取ります。予約専用のホームページや予約を取りたい法務局への電話や窓口で予約することができます。
- 住所地を管轄する法務局
- 本籍地を管轄する法務局
- 所有不動産の所在地を管轄する法務局
・遺言者本人が法務局で申請手続
予約した日時に遺言者本人が法務局へ行き、保管申請をします。申請に必要なものは以下の通りです。
- 自筆証書遺言の方式や自筆証書遺言保管制度の様式を守って作成した遺言書(ホチキス止めや封をしていないもの)
- 保管申請書
- 本籍と戸籍の筆頭者の記載のある住民票の写し(マイナンバーや住民票コードの記載がなく、作成後3か月以内のもの)等
- マイナンバーカードや運転免許証などの顔写真付きの本人確認書類
- 手数料3900円分の収入印紙(法務局で購入できます。)
・保管証を受け取る
最後に保管証を受け取ります。保管証に記載されている保管番号が分かると各種手続きがスムーズにできます。そのため、保管証の写しを家族に渡しておくと家族が相続開始後にスムーズに手続きを行うことができます。なお、保管証は再発行できませんが、保管証がなくても手続き自体は可能です。
保管中の自筆証書遺言を確認する方法
遺言者の死亡後に相続人は以下の手続きをすることができます。
・遺言書が保管されているか確認
・遺言書情報証明書の取得
遺言書情報証明書を遺言書原本の代わりに登記などの相続手続に利用することができます。なお、遺言書情報証明書を取得すると他の相続人等に遺言書が保管されていることが通知されます。
・遺言書の閲覧
証明書の取得と同様、遺言書を閲覧すると他の相続人等に遺言書が保管されていることが通知されます。
自筆証書遺言保管制度のデメリット
・内容をチェックしてもらえない
法務局の職員は方式不備がないかチェックをしますが、遺言書の内容などはチェックしません。そのため、遺言書が無効になるリスクは残っています。
・本人が法務局に行く必要がある
自筆証書遺言保管制度では本人が法務局に行く必要があるため、病気などで本人が法務局にいけない場合は利用できません。
・自書が必要
自書ができないと自筆証書遺言が作成できないため、自筆証書遺言保管制度を利用できません。
弁護士が公正証書遺言の作成をお勧めする理由
ここまで自筆証書遺言保管制度の概要やメリットについて解説してきました。もっとも、弁護士としては、とにかく安く済ませたいという場合を除いて、公正証書遺言の作成をお勧めします。
(1) 公正証書遺言には自筆証書遺言保管制度と同様のメリットがある
・相続人や親族に遺言内容を知られずに作成・保管できる
公正証書遺言では公証人と証人2名が遺言内容を知ることになりますが、遺言内容を知られたくない人や遺言内容を漏らしてしまう可能性がある人を証人に選ばなければ相続人や親族に知られずに作成・保管できます。
・改ざんや紛失のリスクがない
公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるため、遺言書の改ざんや紛失リスクがありません。
・遺言者の死後、遺言書の保管の有無を確認したり、遺言公正証書の謄本を請求できる。
相続開始後、相続人等は遺言公正証書の有無や保管公証役場の検索や、遺言公正証書の謄本を請求できます。
・検認が不要
公正証書遺言も検認が不要です。
(2) 自筆証書遺言のデメリットがない
・内容などをチェックしてもらえる
公正証書遺言では、公証人が遺言書の形式面だけでなく内容などもチェックするため、公正証書遺言が無効になるリスクは低いと言えます。
・本人が公証役場に行く必要がない
公正証書遺言を作成する場合、公証人が自宅などに出張することが可能です。
・自書が不要
署名することができない場合には、署名をせずに公正証書遺言を作成することも可能です。
(3) 公正証書遺言がお勧めである理由
公正証書遺言は自筆証書遺言と比べると手数料が高くなりますが、自筆証書遺言保管制度と同様のメリットがあり、自筆証書遺言のデメリットがありません。そのため、公正証書遺言がお勧めです。
なお、遺言者の意思をより反映させるには、公正証書遺言案の作成を弁護士に依頼し、税理士に税務面のチェックを受けることがお勧めです。弁護士が遺言者のお気持ちや状況などを検討した上で公正証書遺言案を作成します。
まとめ
一般的には弁護士や税理士などの専門家が関与した上で公正証書遺言を作成するのがお勧めです。
少しでも費用を抑えたい場合には自筆証書遺言保管制度を利用することも可能です。ただし、自筆証書遺言保管制度を利用する場合でも、遺言書が無効になるリスクや思わぬ課税がされるリスクなどを考えると、弁護士や税理士などの専門家へ依頼した方が良いでしょう。
なお、改ざんや紛失、相続人が遺言書を発見できないリスクがあるため、自筆証書遺言を作成した場合は保管制度を利用することをお勧めします。
遺言書の作成をご検討されている方は是非弁護士までご相談ください。
※遺言書の作成に関する相談をご希望の方は「遺言書作成」をご覧ください。 |
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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