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Q. 内縁の妻や夫(配偶者)は相続できるのか?【事実婚の相続に関する権利を解説】

2023年8月14日更新

夫婦と自宅

内縁関係の配偶者に財産を残したい場合、特に生前対策をしなくても財産を残すことはできるのでしょうか?本記事では、生前対策をしなかった場合に内縁の配偶者にどの範囲で財産を残すことができるのか、生前対策にはどのようなものがあるのかについて解説いたします。

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(関連記事)「Q. 【子なし夫婦の相続対策】私たちは夫婦のみで子供がいません。相続はどうなるのでしょうか?

内縁とは?

内縁とは、当事者間に婚姻の意思があり、夫婦としての共同生活を営んでいるものの、婚姻届けを提出していない男女関係を指します。実態は夫婦であること、愛人関係や同棲のカップルは内縁関係ではないことに注意が必要です。

内縁の配偶者には相続権がない

相続権は法定相続人のみに認められていますが、法定相続人になり得るのは、法律婚の配偶者、子(及びその代襲相続人)、両親(祖父母)など直系尊属、兄弟姉妹(及びその代襲相続人)のみであり、内縁の配偶者は法定相続人ではなく、相続権はありません

(関連記事)「Q. 法定相続人とは?【法定相続人の種類・範囲・順位について解説】

また、内縁の配偶者は親族ではないため、相続法の改正で新設された特別寄与料の請求もできません。なお、内縁の配偶者との間の子は母親や認知をした父親に対して相続権があります。

内縁の夫婦の一方が死亡した場合には財産分与が認められない(最高裁判例を解説)

内縁の配偶者に相続権がないとなると、内縁の夫婦の一方が死亡した場合に、夫婦の財産関係の清算や残された配偶者の生活をどうしたらよいのかが問題になります。本来離婚に伴い行われる財産分与を、内縁の夫婦の一方が死亡した場合にも認めることができないかが争点になっていましたが、この問題に対し判断を示した最高裁平成12年3月10日決定について解説いたします。

【事案の概要】

内縁の妻が、内縁の夫の相続人らに対し、内縁の夫が死亡したことにより内縁関係が消滅したときも離婚と同じように財産分与が認められるべきと主張して、内縁の夫から相続した財産分与義務の履行を請求した事案です。

【判旨】

「内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、法律上の夫婦の離婚に伴う財産分与に関する民法七六八条の規定を類推適用することはできないと解するのが相当である。民法は、法律上の夫婦の婚姻解消時における財産関係の清算及び婚姻解消後の扶養については、離婚による解消と当事者の一方の死亡による解消とを区別し、前者の場合には財産分与の方法を用意し、後者の場合には相続により財産を承継させることでこれを処理するものとしている。このことにかんがみると、内縁の夫婦について、離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、準婚的法律関係の保護に適するものとしてその合理性を承認し得るとしても、死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである。」

【解説】

上記の通り、最高裁平成12年3月10日決定は、内縁の夫婦の一方が死亡した場合に財産分与は認められないと判断しました。その理由は、民法は夫婦の婚姻解消時の財産関係の清算と婚姻解消後の扶養について、離婚による解消の場合には財産分与、夫婦の一方の死亡による解消の場合には相続で処理することを予定しており、夫婦の一方の死亡による解消の場合に財産分与を認めることについて民法は予定していないというものです。この判例により、実務上は内縁の夫婦の一方が死亡した場合には財産分与が認められないということになりました。なお、この判例は、内縁の夫婦について離別による内縁解消の場合に財産分与の規定を類推適用することは否定しておらず、内縁の夫婦が生前に離別により内縁関係を解消した場合には財産分与が実務上認められています。

残された内縁の配偶者ができること

内縁の夫婦の一方が死亡した場合、残された内縁の配偶者は夫婦の財産関係の清算や今後の生活について何もできないのでしょうか。実は、以下に示すように一定の範囲で残された内縁の配偶者が保護される場合があります。

(1) 居住権の保護

法律又は判例上、残された内縁配偶者の居住権が保護されています。

・亡くなった方が賃貸借で建物を借りており、相続人がいない場合

残された配偶者は、亡くなった方の建物賃借人としての権利義務を承継します(借地借家法36条)。

・亡くなった方が賃貸借で建物を借りており、相続人がいる場合

最高裁昭和42年2月21日判決は、内縁の妻は相続人が相続した被相続人の賃借権を援用することができると判断しました。

・内縁の夫婦が建物を共有し、居住または共同事業のために共同で使用してきた場合

最高裁平成10年2月26日判決は、上記の場合には特段の事情がない限り、一方が死亡した後は他方がその不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当であると判断しました。

・亡くなった方が所有していた建物に同居していた場合

大阪高裁平成22年10月21日判決は、同居していた内縁の夫所有の建物について、内縁の妻に対し、内縁の妻が死亡するまで無償で使用させる使用貸借契約が黙示に成立していたと判断しました。

その他にも、居住権がない内縁の配偶者に対する明渡請求が権利の濫用と判断された最高裁昭和39年10月13日判決などがあります。

(2) 共有物の清算

内縁の夫婦の一方が死亡した場合には相続権や財産分与は認められませんが、共有財産について共有持分を有することを確認する請求や、共有物を分割する請求が可能な場合があります。ただし、共有財産と認められるのはその財産の形成について具体的に寄与しているような場合に限られるため、専業主婦であっても包括的に財産分与が認められる財産分与とは性質が異なります。

(3) 特別縁故者に対する財産分与の申立

亡くなった方に相続人がいない場合は、相続財産清算人の申立てを行い、相続人がいないことが確定した後に特別縁故者への財産分与の申立てをすることが可能です。

(4) 遺族給付

遺族年金や労災保険の遺族補償給付といった遺族給付では、内縁の配偶者が受給権者になることが定められており、内縁の配偶者は遺族給付を受けられる場合があります。

内縁の配偶者に財産を残すための生前対策

ここまで解説してきたとおり、内縁の配偶者が死別した場合には相続権や財産分与が認められません。また、内縁の配偶者を保護する法制度や判例はあるものの、必ずしも十分な財産を残すことができるとは限らず、手間や費用もかかります。

内縁の配偶者に十分な財産をスムーズに残すためには生前対策が重要になります。主な生前対策として以下の4つがあります。

  • 婚姻する
  • 生前贈与をする
  • 遺言書を作成し、財産を遺贈する
  • 生命保険金の受取人を内縁の配偶者にする

なお、生前贈与や遺贈については相続人の遺留分を侵害しないように注意する必要があります。また、生命保険金の受取人に内縁の配偶者を指定することができるかは商品によって異なります。

内縁の配偶者に関する税務上の問題

遺贈や死因贈与によって財産を引き継いだ場合、内縁の配偶者についても相続税が課税されますが、内縁の配偶者は以下の規定の適用を受けることができません。

  • 小規模宅地等の特例
  • 配偶者に対する相続税額の軽減
  • 生命保険金の非課税限度額
  • 障害者控除

また、内縁の配偶者には贈与税の住宅資金に関する配偶者控除の適用もありません

まとめ

以上、内縁の配偶者の相続に関して解説いたしました。婚姻関係にある配偶者と異なり、内縁の配偶者は限られた範囲でしか保護されていないため、遺言書を書くなど生前の対策が求められます。遺言書の作成に関するご相談は、しらと総合法律事務所にお問い合わせください。

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【記事監修者】

弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや)  
第二東京弁護士会所属  中央大学法学部法律学科卒業

【代表弁護士白土文也の活動実績】
・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信)
・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師
・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇
その他、取材・講演多数
  
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