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Q. 法定後見制度と任意後見制度の違いとは? 比較して解説
2024年5月21日更新
【この記事の内容】 ・成年後見制度とは ・法定後見制度の種類 ・法定後見と任意後見の違い |
成年後見制度は認知症や知的障害などにより判断能力が低下し、財産の管理や契約の締結等をすることが難しい方の支援や保護をする制度です。直接的に介護等をすることで支援・保護するのではなく、財産を管理したり、介護サービスの契約を代理して行うこと等によって支援・保護をします。成年後見制度には家庭裁判所が支援や保護をする人を選任する法定後見制度と、本人が支援や保護をする人を選ぶ任意後見制度があります。
判断能力の低下に不安なく備えるためには、法定後見制度と任意後見制度にはどのような違いがあるのか知っておくことが重要です。法定後見制度には本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型がありますが、この記事では法定後見の中でも主に利用されている「後見」制度と、任意後見制度の違いを解説します。便宜上、この記事では「後見」制度のことを法定後見と表現します。
支援・保護が開始されるまでの手続きの流れが異なる
法定後見は、認知症や知的障害などにより、預貯金の引き出し等の財産の管理や契約等をするだけの判断能力が欠けているのが通常の状態になった段階で家庭裁判所に後見開始の申立てを行い、家庭裁判所が後見開始の審判をすることによって、支援・保護が開始されます。法定後見では支援・保護を開始するにあたって支援・保護を受ける方本人の同意は不要です。
他方で、任意後見は判断能力が十分なうちに公正証書による委任契約で支援・保護の内容等を決めておきます。そして、判断能力が衰えて不十分になった段階で任意後見監督人選任申立てを行い、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで支援・保護が開始されます。任意後見では支援・保護を受ける方本人が同意や不同意をするだけの判断能力がある限りは、支援・保護を受ける方本人の同意が必要です。
任意後見を利用するには判断能力が必要
法定後見は、認知症や知的障害などにより財産の管理や契約等をするだけの判断能力が既に欠けている方の支援や保護をする制度です。
他方で、任意後見はあらかじめ契約でどういった支援や保護をするのか決めておく制度で、判断能力が不十分になった段階で任意後見監督人の選任申立てを行うことで支援、保護を開始させます。
法定後見は契約内容を理解する判断能力が既に欠けている方が利用できる制度であり、任意後見は契約内容を理解する判断能力がある方が利用できる制度であるという点に違いがあります。
任意後見は誰に支援や保護を任せるか本人が決めることができる
法定後見は家庭裁判所が支援や保護をする人(成年後見人)を選任します。申立て時に申立人が成年後見人の候補者を推薦することは可能ですが、推薦した方とは別の方が後見人として選任される場合もあります。
他方で、任意後見では将来支援や保護をする人(任意後見人)を本人が契約で決めることができます。そのため、自分自身が信頼できる人に将来安心して支援や保護を任せることが可能です。
このように、法定後見では本人が支援や保護をする人を選ぶことができるとは限らないのに対し、任意後見では本人が支援や保護をする人を選ぶことができるという点に違いがあります。
任意後見は支援・保護の内容を自分自身で決めることができる
法定後見では支援・保護を受ける方の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を網羅的に行います。
他方で、任意後見では支援・保護の内容を自分自身で決めることができます。ただし、任意後見で決めた支援・保護の内容が十分でない場合には、任意後見制度を利用したにもかかわらず、結局、法定後見を利用せざるを得ないというリスクがあるため、支援・保護の内容を決める際には注意が必要です。
任意後見は管理を任せる財産を選ぶことができる
法定後見では、後見人が本人の財産すべてを管理することになります。
他方で、任意後見では契約で任意後見人に管理を任せる財産を決めます。そのため、任意後見では管理を任せる財産を本人で決めることができます。もちろん財産すべての管理を任せることも可能です。
任意後見は本人の希望を支援・保護の内容に反映しやすい
法定後見は本人の判断能力が欠けているのが通常の状態になってから利用する制度である上、後見人も家庭裁判所が選任するため、本人の希望を良く知る家族等が後見人になるとは限りません。
他方で、任意後見では、本人の希望を良く知る人を任意後見人に選ぶことができます。また、任意後見では本人に任意後見契約をするだけの判断能力があるうちに支援や保護の内容を決めておくだけでなく、本人の希望についても判断能力があるうちにまとめておくことができます。
そのため、法定後見と比べて任意後見では本人の希望を支援や保護の内容に反映しやすいといえます。本人の希望を支援や保護の内容に反映しやすいことは任意後見の代表的なメリットです。
取消権の有無
法定後見制度では、後見人に本人のした契約を原則として取り消すことができる権限があります。
他方で、任意後見では本人のした契約を原則として取り消すことができる権限はありません。判断能力が低下すると自身に不利益な契約を結んでしまうこともあるため、取消権がないことは任意後見のデメリットです。
任意後見は監督人の選任が必要
任意後見による支援、保護を開始するには任意後見監督人の選任申立てを行う必要があるため、任意後見では必ず任意後見監督人が選任されます。
他方で、法定後見では成年後見監督人は必須ではありません。家庭裁判所が成年後見監督人の選任が必要だと判断した場合には成年後見監督人が選任されることになります。
法定後見は居住用不動産の処分に家裁の許可が必要
法定後見では居住用不動産について売却や賃貸、賃貸貸借の解除といった処分をするには家庭裁判所の許可を得る必要があります。
他方で、任意後見では居住用不動産の処分に家庭裁判所の許可は不要です。もっとも、居住用不動産の処分は支援や保護を受ける方への影響が大きいため、任意後見契約において居住用不動産の処分には任意後見監督人の同意が必要と定める場合もあります。
費用の違い
任意後見では、①任意後見契約、②任意後見監督人選任申立て、③任意後見人や任意後見監督人の報酬に費用がかかります。報酬は契約で自由に決めることができますが、法定後見における報酬が参考になるでしょう。任意後見契約や任意後見監督人選任申立ての際に専門家のサポートを依頼した場合には専門家の報酬も必要です。任意後見の費用について詳しく知りたい方は下記の記事をご確認ください。
(関連記事)「Q. 任意後見制度の利用にかかる費用について解説」 |
他方で、法定後見では、①後見開始申立て、②成年後見人の報酬に費用がかかります。成年後見人の報酬は裁判所が決定します。成年後見監督人が選任された場合には成年後見監督人の報酬も必要になりますが、成年後見監督人が選任されないことも多いです。
違いの一覧
任意後見 | 法定後見 | |
判断能力 | 任意後見契約時に判断能力が必要 | 判断能力が欠けているのが通常の状態であることが必要 |
後見人を選べるか | 選べる | 選べない |
支援・保護の内容を決めることができるか | できる | できない |
管理を任せる財産を選ぶことができるか | できる | できない |
希望を反映しやすいか | しやすい | 任意後見と比べるとしにくい |
取消権の有無 | ない | ある |
監督人 | 必ず選任される | 必要な場合には家庭裁判所が選任する |
費用 | ①任意後見契約②任意後見監督人選任申立て③任意後見人や任意後見監督人の報酬に費用がかかる | ①後見開始申立てと②成年後見人の報酬に費用がかかる。 |
居住用不動産の売却 | 家裁の許可は不要 | 家裁の許可が必要 |
まとめ
以上、法定後見制度と任意後見制度の違いについて解説いたしました。任意後見制度はケースに応じて支援・保護の内容を自分自身で決めることができます。ただし、どういった支援・保護をして欲しいのか理解した上で決めなければならないという側面があります。自分自身の希望が適切に反映された契約内容で任意後見契約書を作成するには、十分に判断能力があり、元気なうちに任意後見契約について検討する必要があるでしょう。任意後見契約について興味がある方は、お気軽に弁護士までご相談ください。
※任意後見に関する相談をご希望の方は、「取扱業務 任意後見人」をご覧ください。 |
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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