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Q. 相続放棄の撤回は認められるのか?受理後の錯誤取消しに関する裁判例を紹介
2024年11月20日更新
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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【この記事の内容】 ・相続放棄の申述を取り下げることができる場合 ・相続放棄の取消しができるケース ・相続放棄を取り消すための手続き |
相続放棄は自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に行う必要があります。もっとも、相続財産の調査に時間がかかることも多く、その場合、相続放棄をすべきか否かについて十分な検討時間が無いことも珍しくありません。相続放棄の申立てをした後に新たに財産が見つかったような場合、相続放棄をやめることはできるのでしょうか。また、相続放棄の手続きが完了した後に多額の財産が見つかった場合、相続放棄をしなかったことにはできないのでしょうか。この記事では相続放棄の申述を取り下げることができる場合や相続放棄の取消しができる場合、そして、取り消す場合の手続きなどについて解説します。
相続放棄の撤回は認められない
家庭裁判所で相続放棄の受理審判がされることで、相続放棄の効力が生じます。そして、効力が生じた相続放棄の撤回は認められません。受理審判がされた後にやっぱり相続放棄はやめたいと思ってもその時点では撤回は認められないということになります。相続放棄の手続きは慎重に行う必要があります。
なお、相続放棄の「受理」とは相続放棄を認める家庭裁判所の審判のことです。いわゆる窓口における「受付」とは異なります。
相続放棄の申述の取下げは可能
上記のとおり、相続放棄が受理された後の撤回は認められませんが、受理される前であれば相続放棄の申述を取り下げることができます。通常、相続放棄の申述(受付)→家庭裁判所から申述人又は代理人弁護士に対して回答書(照会書)の送付→返送→家庭裁判所による受理の審判という流れになります。なお、具体的な手続きは、家庭裁判所によって異なるため、回答書(照会書)が送付されず、代理人弁護士宛てに電話で確認されるだけというケースも稀にですがあります。相続放棄の申述をしたけれど、考えが変わってやっぱり相続放棄をしたくないという場合には、できる限り早く申立てを取り下げるべきでしょう。
相続放棄の取消しは可能
相続放棄が受理がされた後も、相続放棄に取消事由がある場合は取り消すことが可能です。ただし、追認をすることができる時から6か月間取消権を行使しなかった場合、取り消すことはできません。また、相続放棄の時から10年を経過したときも取り消すことができません。
【参考条文】 第九百十九条 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。 2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。 3 前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。 |
相続放棄の取消しが認められる具体例
相続放棄の取消しが認められる具体例は以下の通りです。
- 錯誤による相続放棄
後ほど裁判例で具体的なケースをご紹介します。 - 詐欺、脅迫による相続放棄
騙されたり脅されたりして詐欺や脅迫にあたる場合には取り消すことができます。 - 未成年者が親権者の同意を得ずにした相続放棄
未成年者自身が相続放棄をするには親権者の同意が必要です。また、親権者は未成年者に代わって相続放棄をすることが可能ですが、利益が相反するケースが少なくありません。利益が相反するケースでは相続放棄が無効になってしまうため、特別代理人の選任手続が必要です。 - 成年被後見人がした相続放棄
成年被後見人自身が相続放棄をすることはできません。成年後見人などが成年被後見人に代わって相続放棄をします。 - 被保佐人が保佐人の同意を得ずにした相続放棄
被保佐人が相続放棄をするには保佐人の同意が必要です。 - 被補助人が補助人の同意が必要な場合に同意を得ずにした相続放棄
相続放棄について補助人の同意が必要である旨の審判があった場合、被補助人が相続放棄をするには補助人の同意が必要です。 - 後見監督人がいるのに、後見人が後見監督人の同意を得ずに被後見人に代わってした相続放棄
後見監督人がいる場合、後見人が被後見人に代わって相続放棄をするには後見監督人の同意が必要です。
相続放棄を錯誤により取り消すことができるケース
一般的に錯誤は要件を満たすことと立証のいずれについてもハードルが高いですが、錯誤が認められた裁判例もあります。下記では、錯誤が認められた裁判例を3つ紹介します。なお、様々な事情を考慮して錯誤の判断がされるため、似たような事例であれば錯誤が認められるとは限りません。
- 財産が少なく多額の負債があると思い、債務の支払いを免れるために相続放棄をしたが、実際には多額の損害賠償債権があり、それほど多額の負債は存在しなかった事例(高松高裁平成2年3月29日判決)
- 被相続人の母が被相続人の兄弟に相続財産を取得させたいと考え、その旨記載した申述書を提出し、審問でもその意思を明確にした上で相続放棄をしたが、実際には、被相続人の祖母がおり、相続放棄をすると真実は祖母が相続財産をすべて取得することになる事例(東京高裁昭和63年4月25日判決)
- 多額の借金だけがあり、株券がなければ株主としての権利を行使できないと言われ相続放棄をしたが、実際には多額の借金はなく、株券を紛失していても株主としての権利行使はできた事例(福岡高裁平成10年8月26日判決)
相続放棄を取り消すための手続き
相続放棄の申述をした家庭裁判所に対し取消申述書を提出し、審理で取消が認められた場合に取消しの審判がされます。審理は書面を中心に行われます。そのため、取消事由に関する具体的な事情や証拠について充実した書面を作成する必要があります。
相続放棄が無効になるケース
なお、以下のようなケースでは相続放棄が無効になります。
- 申述書が偽造された場合
例えば、他の相続人に勝手に申述書を提出された場合です。なお、受理がされなければそもそも相続放棄の効力が生じないため、裁判所が本人に対して相続放棄の意思を確認する際に、裁判所に他の相続人に勝手に提出された旨をはっきりと伝えると良いでしょう。 - 利益が相反する場合
例えば、未成年者と親権者が相続人である場合に、親権者が自らの相続放棄はせず、未成年者に代わって未成年者の相続放棄をした場合は利益が相反しており無効です。 - 単純承認をした後の相続放棄
単純承認をした場合はもちろん、単純承認をしたとみなされる場合(法定単純承認)も相続放棄が無効になります。自己のために相続が開始したことを知りながら相続財産を処分した場合、単純承認をしたとみなされる場合があるため特に注意が必要です。
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