遺産相続問題に関するよくある質問や、相続に関する基礎知識・豆知識、判例などをQ&A方式でご紹介いたします。
Q. 【遺言書の効力について解説】遺言で法的な効力が生じる事項とは?
2024年9月8日更新
【この記事の内容】 ・法定遺言事項とは ・法定遺言事項の具体例 |
遺言で法的な効力が生じる事項は、民法やその他の法律上定められているもの(法定遺言事項と言います)に限定されています。法定遺言事項には、①遺産の処分に関するもの、②相続の法定原則を修正するもの、③遺言執行に関するもの、④身分に関するもの、⑤その他のものがあります。
遺言書に何を記載するかは遺言者の自由ですが、法定遺言事項以外のことを書いても法的には効力を有しないことには注意が必要です。例えば、遺言者が相続人らに対する思いを記載する付言事項というものがありますが、これは法定遺言事項ではないため、遺言の解釈に影響することはあっても、法的には効力を有しません。
遺産の処分に関する法定遺言事項
・遺贈
遺言で遺贈(被相続人の財産を無償で他人に与えること)することが可能です。遺贈には、遺産の全部またはその一定割合を与える包括遺贈と特定の遺産を与える特定遺贈があります。
また、法定の範囲内で特則を付けることも可能です。例えば、遺言者より先に、遺贈を受ける者(受遺者)が死亡した場合、遺贈は効力を生じません。その結果、遺言がない場合は遺贈の目的物は相続人に帰属します。ただし、特則を付けることで、遺贈の目的物を相続人以外の者に帰属させることが可能となります。
・特定財産承継遺言
「相続人Aに対し、~~を相続させる」などと記載して遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言を特定財産承継遺言といいます。以前は、いわゆる相続させる旨の遺言と呼ばれていましたが、相続法の改正により、特定財産承継遺言として正式に定められました。
(特定財産に関する遺言の執行) 第千十四条 2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。 |
特定財産承継遺言と特定遺贈では放棄の方法が違う点に注意が必要です。特定財産承継遺言の場合は相続放棄をする必要があり、一切の財産を相続ができなくなります。他方で特定遺贈の場合は、その特定遺贈だけを放棄することになるため、その他の財産は相続することが可能です。その他にも、登記手続きにも違いがあるので注意しましょう。
(関連記事)「Q. 死因贈与とは何か?遺贈との違いを解説」 |
・遺言による信託
信託法により、「特定の者(受託者)に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言」をすることで信託が可能です。この信託は、遺言の効力の発生によって効力が生じます。もっとも、いわゆる家族信託をする場合、委託者と受託者との間で信託契約をすることで信託を設定し、生前に信託の効力を生じさせることが多く、遺言信託のケースは少ないのが実情です。
・一般財団法人の設立
遺言で財産の拠出などの定款事項を定めることで一般財団法人の設立をすることが可能です。
相続の原則を修正する法定遺言事項
遺言がない場合の処理や、遺言がある場合にどういった修正が可能なのかという観点から、相続の原則を修正することが可能な法定遺言事項を解説します。
・相続分の指定または指定の委託
遺言がない場合:各相続人の相続分(相続財産全体に対して各相続人が有する権利義務の割合)は、民法で定められた相続分(法定相続分)になります。
遺言がある場合:遺言で法定相続分と異なる相続分を指定することが可能です。第三者に相続分の指定を依頼することも可能です。
・遺産の分割方法の指定または指定の委託
遺言がない場合:遺産の分割方法(どういった方法でどの相続人にどの遺産を分けるか)を遺産分割協議などの遺産分割手続きによって決めます。
遺言がある場合:遺言で遺産の分割方法を指定したり、第三者に分割方法の指定を依頼することが可能です。ただし、遺産分割の当事者全員の合意があれば、遺言で定められた分割方法と異なる分割方法を採用することも可能です。
なお、特定財産承継遺言は、どの相続人にどの遺産を分けるか遺言者が決めるものであり、遺産の分割方法の指定の一つです。
・特別受益を遺産の分配額を計算する際に考慮しない
遺言がない場合:遺贈や一定の贈与は特別受益として遺産の分配額を計算する際に考慮されます。
遺言がある場合:遺言で遺贈や一定の贈与を特別受益として遺産の分配額を計算する際に考慮しないことにする旨の意思を表示することが可能です。生前に遺言以外の方法で意思を表示することも可能です。これを持ち戻し免除の意思表示と言います。
なお、上記意思の表示は遺留分侵害額請求には影響しません。遺贈や贈与をする場合には他の相続人の遺留分を侵害しないよう注意が必要です。
(関連記事)「Q. 遺産分割における特別受益とは?特別受益の具体例を解説」 |
・推定相続人の廃除・廃除の取消し
遺言がない場合:被相続人の死後、推定相続人が相続人になります。
遺言がある場合:廃除とは、被相続人に虐待や重大な侮辱をした推定相続人や、著しい非行があった推定相続人について、被相続人の意思に基づいて相続資格をはく奪する制度です。遺言で推定相続人の廃除や、廃除の取消しをする意思を表示しておくことが可能です。遺言で意思を表示しておいた場合、遺言の効力が生じた後に遺言執行者が廃除や廃除の取消しを家庭裁判所に請求します。なお、生前に、推定相続人の廃除や、廃除の取消しを家庭裁判所に請求することも可能です。遺言による推定相続人の廃除は、家庭裁判所での審理の際に既に遺言者が亡くなっているため、推定相続人による虐待や重大な侮辱があったこと、著しい非行があったことの主張立証が容易ではないという問題があります。遺言による推定相続人の廃除を行う場合には、どのような証拠を残しておくべきか弁護士に相談すべきでしょう。
・遺贈又は同時にされた贈与の遺留分侵害額の負担割合の指定
遺言がない場合:受遺者が複数人いる場合、各受遺者は遺贈の価額の割合に応じて遺留分侵害額を負担します。
遺言がある場合:遺言で各受遺者の遺留分侵害額の負担割合を決めることが可能です。
同時に贈与された受贈者が複数人いる場合については受遺者が複数人いる場合と同様です。
・共同相続人間の担保責任に関する指定
下記の共同相続人間の担保責任に関して、遺言で排除したり、修正したりすることが可能です。
相続人が遺産分割により取得したものに瑕疵がある場合、他の共同相続人は売主と同じ担保責任(代金減額、損害賠償などを負います(民法911条)。
遺産の分割の結果取得した債権について、回収できない場合、他の共同相続人は、分割時の債務者の資力を担保する責任を負います(民法912条1項)。また、弁済期が到来していない場合や、停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保します(民法912条2項)。
担保責任を負う共同相続人に資力がない者がいる場合、その者が償還することができない部分について、過失のない求償者や、他の資力のある者が、それぞれの相続分に応じて担保する責任を負います(民法913条)。
遺言執行に関する法定遺言事項
・遺言執行者の指定又は指定の委任
遺言の内容を実現するために手続きを行う者(遺言執行者)を指定したり、第三者に指定を依頼することが可能です。また、法定の範囲内で特則を付けることも可能です。例えば、遺言がない場合は家庭裁判所が遺言執行者の報酬を定めますが、遺言によって遺言執行者の報酬を定めることも可能です。
身分に関する法定遺言事項
・未成年後見人・未成年後見監督人の選任
管理権を有する親権者は、他に管理権を有する親権者がいない場合は、遺言で未成年後見人や、未成年後見監督人を選任することが可能です。
・認知
認知は遺言でもすることが可能です。
その他の法定遺言事項
・祭祀財産の継承者の指定
遺言がない場合:祭祀財産(系譜、祭具、墳墓の使用権など)を承継する者は相続とは別の手続きによって決まります。
遺言がある場合:遺言で祭祀財産を承継する者を指定することが可能です。
・遺産分割の禁止
遺言がない場合:遺産分割は被相続人の死後であればいつでもすることが可能です。
遺言がある場合:遺言で遺産の分割を一定の期間(最長で相続開始の時から5年間)禁止することが可能です。
(関連記事)「Q. 遺産分割の禁止とは?その方法と用いられるケースについて解説」 |
・遺言の撤回
これまでにした遺言を撤回することが可能です。なお、遺言の撤回方法は厳密に定められているため、方法を間違えると遺言の撤回が認められなくなる点には要注意です。
・生命保険金の受取人変更
生命保険金の受取人の変更は遺言でもすることが可能です。
まとめ
以上、遺言で法的な効力が生じる事項について解説いたしました。遺言で法定遺言事項以外のことを書いても法的には効力を有しません。また、目的を実現するために遺言以外の方法を検討すべき場合もあります。遺言書を作成する際には弁護士に相談することをお勧めいたします。
※遺言に関する関連記事の一覧です。 |
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
関連Q&A
お問い合わせ
相続・家族信託・事業承継以外のご相談は、しらと総合法律事務所をご覧ください。
調布・三鷹・武蔵野・稲城・狛江・府中・多摩・小金井・西東京・世田谷・杉並など東京都の各地域、川崎・横浜など神奈川県、その他オンライン法律相談により全国各地からご相談頂いております。
電話受付時間:月~土(祝日を除く)10時~18時
メール受付時間:24時間365日受付中
※三鷹武蔵野オフィスは土曜日は予約受付のみ対応しております。土曜日の相談をご希望の方は、調布オフィスをご利用ください。
※平日18時以降(19時スタートがラスト)の相談も可能です(事前予約制・有料相談のみとなっております)。
※メールでのお問い合わせについては、通常1~2営業日以内に返信いたします。お急ぎの方は電話でお問い合わせください。