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Q. 不動産の生前整理の進め方とは? 終活の一環である不動産の生前整理について解説
2024年7月11日更新
【この記事の内容】 ・生前整理は3ステップで進める ・不動産の把握について ・不動産の問題解決について ・不動産の管理・処分・承継の方針を決めることについて |
終活の一環として生前整理に興味があるという方もいらっしゃると思います。生前整理を適切に行うことで相続トラブルのリスクや相続人の負担を軽減することができるだけでなく、将来の判断能力の低下等、将来の状況の変化に備えることもできます。この記事では不動産の生前整理について3ステップでわかりやすく解説いたします。
※不動産の放棄や相続対策などに関心のある方は、こちらもご覧ください。 |
生前整理とは
生前整理については様々な考え方がありますが、この記事では下記の3ステップを不動産の生前整理として解説いたします。
【生前整理の3ステップ】
- 不動産の把握
- 不動産の問題解決
- 不動産の管理・処分・承継の方針を決める
各ステップのメリット
不動産の把握
不動産の問題を解決したり、管理・処分・承継の方針を決めるには自分が権利を持っている不動産を把握することが不可欠です。また、相続人が不動産を把握できるようにしておくことで相続人が相続財産を調査する負担が軽減されます。
不動産の問題解決
不動産の問題を解決しておくことで、不動産の管理・処分・承継の方針を決める際の選択肢を増やすことができ、相続人に問題を先送りしないで済みます。
不動産の管理・処分・承継の方針を決める
不動産の管理・処分・承継の方針を適切に決めておくことで、将来の状況変化に備えたり、相続トラブルのリスクを軽減したりすることができます。
不動産を把握する方法
自分が権利を持っている不動産でも、先代名義のままになっていて把握できていないということもあります。不安な方は自分が権利を持っている不動産を把握するところから始めましょう。不動産を把握する一般的な方法は以下の通りです。
遺産分割協議書を確認する
遺産分割手続きをしたけれども名義変更をしていない不動産については、遺産分割協議書を確認することで把握することが可能です。
遺言書を確認する
遺言書で処分が決まっている不動産については遺産分割協議の対象にならないため、遺産分割協議書を見ても確認できません。遺言書を確認して把握しましょう。
納税通知書を確認する
市区町村ごとに送られてくる固定資産税・都市計画税納税通知書に添付されている課税明細書を確認することで、市区町村ごとの不動産を概ね確認することができます。ただし、非課税の不動産(私道等)や代表者でない共有不動産等は記載されていないことが多いです。送付される時期は市区町村により異なりますが、一般的には4月から6月です。固定資産税・都市計画税納税通知書を探したい場合は4月から6月頃の郵便物を確認してみてください。
名寄帳を確認する
名寄帳(固定資産課税台帳を所有者ごとにまとめたもの)を確認することで非課税の不動産等を把握することができます。ただし、名寄帳にはその市区町村の不動産しか記載されていません。そのため、課税明細書等で不動産がある市区町村にあたりをつける必要があります。また、そもそも非課税不動産等を記載しない自治体もあるため事前に確認する必要があります。
権利証や登記簿を確認する
固定資産税・都市計画税納税通知書をなくしてしまった場合や名寄帳に非課税不動産等が記載されていない自治体では、手元で保管している権利証や登記簿等で個別に把握することになります。
なお、自分名義の不動産についても納税通知書、名寄帳、権利証・登記簿等を確認することで把握することが可能です。
把握した不動産はまとめておく
把握した不動産はエンディングノート等にまとめておき、相続人が確認できるようにしておきましょう。相続人が確認できるようにしておくことで相続手続きの際に不動産を調査する負担が軽減されます。預貯金等の不動産以外の財産もまとめておくとよいでしょう。
不動産の問題解決
不動産を把握したら次に不動産の問題を解決します。不動産の問題は時間が経つほど解決が難しくなり、手間やコストがかかります。また、相続人は事情に疎く、問題を解決することが難しいことも少なくありません。不動産の問題を相続人に先送りしてしまうと、問題のある不動産を相続人間で押し付け合うことになってしまうリスクや、そもそも解決ができなくなってしまうリスク等も生じてしまいます。そのため、不動産の問題はできる限り相続人に先送りせずに自分で解決しておくことが望ましいといえます。
問題のある不動産の例は以下のとおりです。
- 相続が開始したが遺産分割をしていない不動産
- 確定測量を行っていない土地
- 共有している土地
- 海外の不動産
- いわゆる負動産
相続が開始したが遺産分割をしていない不動産
被相続人が死亡し相続が開始したにもかかわらず遺産分割をしないままでいると、遺産分割の当事者の数が増えたり、遺産分割の当事者の関係が希薄になったりします。そうすると遺産分割をスムーズに行うことが難しくなってしまいます。以下のケースを用いてこのような問題が起きてしまう理由を解説いたします。
- 父が死亡
- 父の相続人は母と子
- 父の遺産分割をしないまま子が死亡
- 子の相続人は子の配偶者と孫(子の子)
このケースでは、父の遺産分割を父の相続人である母と子で行うことができました。しかし、父の遺産分割をする前に子が死亡したことによって、子が有していた父の相続人の地位を子の相続人が承継しました。そのため、父の遺産分割は母、子の配偶者、孫で行うことになります。母と子の関係より、母と子の配偶者、孫の関係の方が希薄なことは少なくありません。被相続人の子が1人のケースで説明しましたが、子が複数いる場合は、さらに複雑になります。このように、遺産分割の当事者の数が増えたり、関係が希薄になったりするリスクがあります。このリスクは遺産分割をしないままであればあるほど大きくなるため、速やかに遺産分割を行うことが望ましいといえます。
確定測量を行っていない土地
確定測量を行って隣地所有者と境界を確認していないと、相続開始後に境界トラブル(例えば、相続開始後に境界に争いがあることが判明する、隣地所有者に境界を確認してもらえず相続税の納税期限までに不動産を売却することができない等)が起こるリスクがあります。
相続人は本人と比べて境界について疎かったり、隣地所有者との関係が希薄だったりして、相続人が境界トラブルを解決することが大変なことも少なくありません。そのため、自分の代で確定測量を行い、隣地所有者との境界確認を試みることで境界トラブルの有無を確認し、境界トラブルがある場合には解決しておくことが望ましいといえます。境界トラブルの内容に応じて隣地所有者との交渉や、筆界特定制度、所有権確認訴訟等の方法で解決することが可能です。
共有している土地
共有不動産には権利関係が複雑になったり、管理や処分が自由にできないなどの問題があるため、できる限り共有関係は解消することが望ましいといえます。
共有関係を解消する方法としては以下のようなものがあります。
- 共有者全員で土地を売却する
誰か分からない共有者や所在の分からない共有者がいる場合でも、所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申し立てを行うことで、その共有者を除く共有者全員で土地を売却することが可能な場合があります。 - 共有持分を売却する
- 共有持分を放棄する
- 他の共有者から持分を買い取る
誰か分からない共有者や所在の分からない共有者については、所在等不明共有者持分取得申立てを行うことで持分を買い取ることができる場合があります。 - 共有物分割請求
海外の不動産
海外の不動産にはその所在地の法律が適用される場合があり、手続きが複雑になってしまうことがあります。相続人の負担を軽減するためには、海外の不動産がある場合には所在地法の適用の有無を確認し、所在地法が適用される場合には生前に売却し、国内資産にしておくといった対策をしておくことが望ましいといえます。
いわゆる負動産
固定資産税などの負担はある一方で、なかなか買手も見つからず、利用する予定もない、いわゆる負動産は相続人にとって負担になってしまいます。そのため、生前に負動産となっている原因を取り除くか、負動産を処分し、相続人の負担にならないようにしておきたいところです。
負動産になっている原因を解決することで負動産から脱却できる場合があります。また、負動産から脱却できなかった場合でも、問題がある状態よりは処分がしやすくなります。そのため、可能な限り問題は解決しておくことが望ましいといえます。
もっとも、田舎で需要がない土地のように負動産の原因を解決することが難しい負動産も少なくありません。その場合にはなんとか処分できないか模索することになります。
(関連記事)「【負動産問題】土地の共有持分を放棄する方法について解説」 |
負動産の処分
負動産を通常の不動産と同じように売却することも不可能ではありませんがなかなか買い手は見つかりません。負動産を処分する方法としては以下のようなものがあります。
お隣の方に売却・贈与
一般的には需要がない負動産でもお隣の方にとっては需要があることもあります。お隣の方とコンタクトを取ることで売却や贈与に応じてくれることもあります。
専門的な民間サービスの利用
一般的には需要がない負動産でも専門的な民間サービスを利用することで引き取り先が見つかることもあります。利用時にはトラブルが生じないよう注意が必要です。
自治体や国の機関への寄付
一般的には活用が難しい負動産でも自治体や国の機関であれば有効活用できる場合もあり、寄付を受け付けてくれることもあります。自治体や国が引き取るため寄付後にトラブルになる可能性が低いといえます。
相続土地国庫帰属制度
相続土地国庫帰属制度は国が土地を引き取る制度です。この制度には以下のような特徴があり、対象土地が限られており費用もかかりますが、国が引き取るため寄付後にトラブルになる可能性が低いといえます。
- 相続や遺言で取得した土地に限られる。
- 管理・処分に過分の費用・労力がかかる土地は対象外
- 手数料や負担金が必要
不動産の管理・処分・承継の方針を決める
自分が権利を持っている不動産を把握して共有状態の解消などの問題を解決したあとは、不動産の活用、処分、承継の方針を決める必要があります。方針によって取るべき対策が異なるため、2つの具体例について解説いたします。
同居している子どもに自宅を相続させたい
特に対策していない場合は自宅も遺産分割の対象になるため、同居している子どもに自宅を相続させられるとは限りません。対策としては例えば、自宅を同居している子供に相続させる旨の遺言書を元気なうちに作成しておくことが考えられます。
施設に入る際に自宅を売却し老後の資金にしたい
売却時に判断能力があれば問題ありませんが、売却時に判断能力がない場合には自分で自宅を売ることができませんし、誰かに売却を任せることもできません。
特に対策をしていない場合でも後見開始の申し立てを行い、後見が開始してから後見人が家庭裁判所の許可を受けた上で自宅を売却することは可能です。ただし、この場合には手続きに時間がかかるため速やかに自宅を売却することが難しくなります。また、自宅を売却した後も後見が続くため、後見人の報酬が発生してしまいます。
対策としては例えば、施設入所のタイミングで自宅を売却し、売却代金から入所費用等を支払う内容の家族信託契約を子供との間で締結しておくことが考えられます。家族信託をしておけば、売却時に本人に判断能力がなくても後見制度を利用せずに自宅を売却し、売却費用を入所費用に充てることが可能になります。
まとめ
以上、不動産の生前整理について3ステップに分けて解説いたしました。相続人の負担を軽減し、将来の状況の変化に備えるためには生前整理が重要です。弁護士は生前整理についてサポートすることもできます。お悩みの方は弁護士にご相談下さい。
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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