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Q. 任意後見制度とは 制度の概要や手続きの流れなどを解説

2024年6月19日更新

高齢者

【この記事の内容】

・任意後見制度の概要
・手続きの流れ


80歳〜84歳の認知症率が約20%、85歳〜89歳の認知症率が約40%といわれており、誰もが認知症に備えておく必要がある時代になっています。認知症により生じる問題は様々ですが、そのうちの一つとして、認知症によって判断能力が低下すると財産管理や契約などを適切に行うことが難しくなるという問題があります。任意後見制度はこの問題への対策の一つです。この記事では任意後見制度の概要や手続きの流れを解説いたします。

任意後見制度とは?

任意後見制度は、判断能力が十分なうちに、支援・保護を必要とする者と支援・保護をする者との間で将来判断能力が低下した後の財産の管理等の内容について契約で決めておき、判断能力が低下した後に家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てを行うことで支援や保護をスタートさせる制度です。例えば、支援・保護をする人は介護サービスの契約について代理人として契約することなどが可能です。介護を直接行う訳ではありません。

任意後見制度は成年後見制度のひとつです。成年後見制度は認知症や知的障害などにより判断能力が低下し、財産の管理や契約の締結等をすることが難しい方の支援や保護をする制度で、成年後見には任意後見制度の他に、家庭裁判所が支援や保護をする人を選任する法定後見制度があります。法定後見と任意後見には様々な違いがあります。興味がある方は下記の関連記事をご確認下さい。

(関連記事)「法定後見制度と任意後見制度の違いとは? 比較して解説

任意後見に関与する者

任意後見制度に関与する者は以下の通りです。

  • 委任者
    任意後見契約の委任者であり、将来判断能力が低下した後に支援・保護を受ける者です。「本人」ともいいますが、この記事では委任者と表記します。
  • 任意後見契約の受任者
    任意後見契約の受任者であり、任意後見監督人が選任される前は任意後見受任者、選任された後は任意後見人と呼ばれます。任意後見監督人が選任された後に委任者の支援・保護をする者です。
  • 申立人
    任意後見監督人選任申立手続の申立てをする人です。
  • 任意後見監督人
    任意後見人を監督する人です。

任意後見人ができること

任意後見人は契約であらかじめ決めた範囲で委任者の代わりに預貯金や不動産などの財産管理や医療・介護等に関する契約や手続きをします。後見事務の代表的な例は以下の通りです。

【委任者の生活や療養看護に関する後見事務】

  • 介護契約の締結や解除
  • 施設入所契約の締結や解除
  • 医療契約の締結や解除

【財産管理に関する後見事務】

  • 財産目録の作成
  • 預貯金などの財産の管理
  • 生活費の送金
  • 年金や保険金の受取
  • 家賃や公共料金の支払い
  • 不動産などの重要な財産の処分
  • 賃貸借契約の締結や解除
  • 遺産分割

他にもどういった後見事務があるのか知りたい方は法務省令で定められているこちらの任意後見契約の様式で後見事務の項目を一覧することができます。

後見事務には様々なものが考えられますが、例えば介護を直接行うことや、委任者が死亡した後の事務は後見事務ではありません。また、任意後見人には医療について同意する権限はありません。付言事項に本人が望む治療方法といった本人の希望を定めておくことで、本人の希望(本人が望む治療方法など)を病院に伝えることができるに留まります。

利用方法とメリット、デメリット

任意後見の利用方法には(1)将来型、(2)移行型、(3)即効型の3つがあります。任意後見の多くは将来型であり、即効型はあまり使われていません。

(1) 将来型

任意後見契約を締結し、判断能力が低下した時点で任意後見監督人選任申立てを行い、支援・保護をスタートさせる利用方法です。

将来型には本人の判断能力が低下したのに任意後見監督人選任申立てが行われず、支援・保護が必要な本人の支援・保護がされないリスクがありますが、見守り契約を締結することで対策することが可能です。見守り契約とは、任意後見受任者に本人の判断能力を定期的に確認する義務と本人の判断能力が低下したら任意後見監督人選任申立てを行う義務を負わせる契約です。

(2) 移行型

任意後見契約に加え、通常の任意代理の委任契約を締結する利用方法です。判断能力が低下するまでの間は通常の任意代理の委任契約、判断能力が低下した後は任意後見契約で支援・保護をします。

任意後見契約と通常の任意代理の委任契約の委託内容が異なっていても構いません。例えば、通常の任意代理の委任契約では判断能力が十分にある間の支援・保護をすることになるため、収益物件の管理といった難しい事項に限定して委託し、任意後見契約では公共料金の支払いなどの簡単な事項を含めて委託するといったことも可能です。

本人の判断能力が低下したのに任意後見監督人選任申立てが行われないリスクがあることは将来型と同じです。将来型と同じように、任意代理の委任契約に見守り契約の内容を含めておくことで対策することが可能です。

(3) 即効型

任意後見契約の締結直後に任意後見監督人選任申立てを行い、支援・保護をスタートさせる利用方法です。任意後見監督人が選任されるには委任者の判断能力が自己の財産を適切に管理するには援助が必要な場合がある程度に低下している必要がありますが、任意後見契約の内容を理解できるだけの判断能力がなければ任意後見契約を締結することはできません。そのため、即効型を利用できるのは、判断能力が自己の財産を適切に管理するには援助が必要な場合がある程度に低下しているが、任意後見契約の内容は理解できる場合に限られます。なお、即効型は任意後見契約締結時に判断能力が低下している状況であるため、安易に任意後見契約を締結してしまうリスクや、任意後見契約が無効であると争われるリスクがあります。

手続きの流れ

利用されることの多い将来型について、一般的な手続きの流れを時系列に沿って解説いたします。

(1) 任意後見契約締結時

委任者の希望を確認

委任者と弁護士が面談し、委任者が将来判断能力が低下した後に不安に思っていることや、判断能力が低下した後も大切にしたいこと等を確認し、将来どのように生活していきたいのかという点について委任者の希望を確認します。

委任者の希望を実現するための方法として任意後見制度が適切か検討
次に、弁護士が委任者の希望を実現するために任意後見制度が適切か検討します。例えば任意後見ではなく法定後見が適切なこともありますし、任意後見に加えて任意後見を補完する制度を利用すべき場合もあります。

任意後見と法定後見の違いや、任意後見と家族信託の違いについては下記の関連記事をご確認下さい。

(関連記事)「Q. 任意後見制度と家族信託の違いとは? どちらを選ぶべきか違いを比較

任意後見で行う支援・保護の内容を決定

検討の結果、任意後見制度を利用することになった場合は、任意後見で行う支援・保護の内容や、任意後見受任者を決め、任意後見契約書案を作成します。任意後見制度では任意後見受任者を自分で選ぶことができます。支援・保護を行う人として適切な人については関連記事をご確認下さい。

任意後見契約書の作成

任意後見契約書は公正証書で作成する必要があります。そのため、契約書案をもとに公証人と事前打合せをした上で公正証書で任意後見契約書を作成します。
本人と任意後見受任者が公証役場に行き作成しますが、本人が公証役場に行くことが難しい場合は、公証人が本人の自宅などに出張することも可能です。なお、任意後見契約公正証書の作成当日に一般的に必要な書類は以下の通りです。

【必要書類】
 
・委任者の住民票
 契約日から3か月以内のものが必要です。

・委任者の戸籍謄本
 契約日から3か月以内のものが必要です。
・委任者の身分証明
 身分証明として印鑑登録証明書と実印、運転免許証と認印などが必要です。
・受任者の住民票
 契約日から3か月以内のものが必要です。
・受任者の身分証明

登記

任意後見契約の締結後、公証人が任意後見契約の登記手続きを行います。

(2) 任意後見契約の締結から判断能力が低下するまでの間

任意後見契約の締結後、委任者の判断能力が低下し不十分になった段階で、任意後見監督人選任申立ての手続きを行い任意後見による支援・保護を開始させる必要があります。委任者と任意後見受任者の関係などに応じて委任者の判断能力を定期的に確認することや、適切な時期に任意後見監督人選任申立てを行うことを任意後見受任者の義務とする見守り契約を締結するといった対策をすることもあります。

(3) 任意後見監督人選任申立て

委任者の判断能力が低下し不十分になった段階で、委任者の住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所に任意後見監督人選任申立ての手続きを行います。

申立先

任意後見監督人選任申立ての申立先は委任者の住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所です。

申立てをすることができる人

申し立てをすることができるのは、①委任者、②配偶者、③四親等内の親族、④任意後見受任者です。なお、誰も申立てをしないと委任者の支援・保護が必要なのに支援・保護が開始されないため、任意後見契約締結時に委任者と任意後見受任者との間に見守り契約を締結するといった対策をすることがあります。なお、委任者以外の者が申立てをする場合、委任者の同意が必要になります。ただし、同意ができない場合は不要です。

必要書類

東京家庭裁判所における申立ての必要書類は以下の通りです。なお、家庭裁判所によって必要書類が異なる場合もあります。

【作成する書類】

  • 申立書
  • 申立事情説明書
  • 親族関係図
  • 財産目録及びその資料
  • 収支予定表及びその資料
  • 任意後見受任者事情説明書

【収集する書類】

  • 成年後見制度用の診断書、診断書付票
  • 本人情報シート(コピー)
  • 委任者の戸籍個人事項証明書
    申立日から3か月以内のものが必要です。
  • マイナンバーの記載のない委任者の住民票(又は戸籍の附票)
    申立日から3か月以内のものが必要です。
  • マイナンバーの記載のない任意後見受任者の住民票(又は戸籍の附票)
    申立日から3か月以内のものが必要です。
  • 任意後見の登記事項証明書
  • 委任者が成年被後見人等の登記がされていないことの証明書
  • 任意後見契約公正証書(コピー)

申立後の流れ

申立後の一般的な流れは以下の通りです。なお、裁判所やケースに応じて異なる場合があります。

  • 家庭裁判所の面接
    委任者は家庭裁判所で面接を受けます。面接では任意後見契約を発効させ支援や保護を開始することに関する意向や任意後見受任者の適性に関する事情などを聞かれます。
  • 任意後見受任者などへの意見聴取
    家庭裁判所は任意後見受任者などに意見聴取を行います。任意後見人としての適性に関する事情を聞かれることもあります。
  • 親族に対して書面による照会(家庭裁判所が必要と判断した場合)
  • 鑑定(原則行われない)
    原則として鑑定は行われませんが鑑定を行うこともあります。なお、鑑定費用は一般的には10万円~20万円程度です。
  • 審判
    家庭裁判所が支援・保護をスタートすべきと判断した場合には、任意後見監督人を選任した旨の審判書が郵送されます。

(4) 後見業務

任意後見監督人が選任され任意後見契約が発効した後、任意後見人は任意後見契約で定められた範囲で委任者の支援・保護を行います。支援・保護は委任者の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しながら行われます。

(5) 後見の終了

委任者がお亡くなりになると任意後見が終了します。任意後見の終了後、任意後見人は以下の事務を行います。

【任意後見終了後の事務】

  • 任意後見監督人に委任者がお亡くなりになったことを連絡
  • 後見終了登記の申請
  • 任意後見人が保管している委任者の財産の引継ぎ(任意後見人が委任者の相続人ではない場合)
  • 任意後見監督人に任意後見の終了に関する報告書の提出

費用

任意後見制度の利用には、①任意後見契約時の費用、②任意後見監督人選任申立時の費用、③任意後見人や任意後見監督人の報酬の他に、④弁護士に依頼する場合の報酬、⑤任意後見制度を保管する他の制度を利用する場合の費用が必要になります。費用について詳しく知りたい方は下記の関連記事をご確認ください。

(関連記事)「Q. 任意後見制度の利用にかかる費用について解説

まとめ

以上、任意後見制度の概要や手続きの流れについて解説いたしました。任意後見制度を上手に利用することで老後に財産管理や、契約・手続きを適切に行えなくて困るのではないかという心配をせずに安心して過ごすことができます。任意後見制度は任意後見契約の契約内容を理解できるだけの判断能力がなければ利用することができません。任意後見制度に興味がある方はお早めに弁護士までご相談ください。

※任意後見に関する相談をご希望の方は、「取扱業務 任意後見人」のページをご覧ください。

【記事監修者】

弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや)  
第二東京弁護士会所属  中央大学法学部法律学科卒業

【代表弁護士白土文也の活動実績】
・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信)
・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師
・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇
その他、取材・講演多数
  
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