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Q. 遺産相続における預貯金の分け方・手続き方法を弁護士が解説(遺産分割協議書の例文付き)
2024年2月8日更新
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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【この記事の内容】 ・遺言書がない場合の預貯金を分ける流れ ・預貯金の具体的な分割方法や条項例 ・遺産全部を分割する前に預貯金が必要な場合の対処法 |
遺言書がない場合に預貯金を分けるには具体的に何をすればいいのか分からない、すぐに預貯金が必要だけどどうすればいいか分からないというお悩みをお持ちの方は多いと思います。この記事では、遺言書がない場合の預貯金の具体的な分け方や、遺産分割前に預貯金が必要な場合の対処法について解説します。
目次
- 遺言書がない場合は相続人全員による預貯金の遺産分割手続きが必要
- 預貯金口座の残高調査と口座凍結
- 相続預貯金の分割方法
- 遺産分割協議書を作成する
- 金融機関に提出する必要書類
- 預貯金のみを遺産分割(一部分割)する場合の注意点
- 遺産分割前の相続預貯金の払い戻し制度
- 仮分割の仮処分
- 遺産分割成立前の預貯金の引き出しはトラブルの原因
- まとめ
預貯金口座の残高調査と口座凍結
まずは遺産分割手続の前提として、預貯金の残高を確認します。金融機関に対して被相続人が死亡した日の残高証明書を請求します。残高証明書の請求は相続人一人ですることが可能です。また、金融機関に連絡することで預貯金口座が凍結されるため、他の相続人が勝手に払い戻しを受けることを予防することができます。
相続預貯金の分割方法
残高を確認したら分割方法を協議します。預貯金の主な分割方法は以下の2つです。
(1) 相続人の一人が預貯金を取得し差額を調整する
相続人の一人が預貯金を取得し、預貯金とその相続人の取り分との差額を他の遺産や金銭の支払いで調整する方法です。
例えば、相続人Aと相続人Bが2分の1ずつ相続分を有する場合に、遺産である預貯金1000万円を相続人Aに取得させ、相続人Aが相続人Bに対し差額の500万円を支払うような場合が考えられます。
(2) 預貯金を解約・払い戻して分割
相続人の代表者が預貯金の解約・払戻手続きを行い、払戻金を各相続人に振り込むことで分割する方法です。
例えば、遺産である預貯金1000万円を相続人Aと相続人Bが2分の1ずつの相続分を有する場合に、相続人Aが代表者として預貯金を解約し、払戻金1,000万円のうち500万円を相続人Bに対して振り込むような場合が考えられます。
遺産分割協議書を作成する
分割方法が決まったら遺産分割協議書を作成します。預貯金を分割する条項例は以下の通りです。なお、実際には遺産分割の対象となる遺産の確認や、新しい遺産が見つかった場合の処理などの一般的な条項や、具体的な事情に応じた条項を定める必要があります。下記の条項例は1つの参考例に過ぎず、事案ごとに遺産分割協議書の条項例は異なりますので、実際に作成する場合には、弁護士などの専門家にアドバイスを受けることをお勧めします。
(1) 相続人の一人が預貯金を取得し差額を調整する条項例
第〇条 相続人A(昭和〇年〇月〇日生)は、下記の預金を取得する 記 〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号 〇〇〇〇〇〇〇 口座名義 〇〇 第〇条 Aは相続人B(昭和〇年〇月〇日生)に対し、前条の遺産を取得した代償として500万円を支払うこととし、これを令和〇年〇月〇日限り、Bの指定する口座(〇〇銀行〇〇支店 普通預金口座 口座番号〇〇 口座名義 〇〇)に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料はAの負担とする。 |
(2) 相続人の代表者が解約・払い戻しを行い各相続人へ振込む条項例
第〇条 相続人A(昭和〇年〇月〇日生)と相続人B(昭和〇年〇月〇日生)は、下記の預金をそれぞれ2分の1の割合により取得する。Aは代表相続人として、預貯金の解約及び払い戻し又は名義変更の手続きを行い、Bの取得分について、Bの指定する口座(〇〇銀行〇〇支店 普通預金口座 口座番号〇〇 口座名義 〇〇)に振り込んで引き渡す。なお、端数が生じた場合にはその端数をBが取得するものとし、振込手数料はBの負担とする。 〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号 〇〇〇〇〇〇〇 口座名義 〇〇 |
金融機関に提出する必要書類
遺産分割協議書を用いて金融機関ごとに解約や払い戻しなどの手続きを行います。一般的な必要書類は以下の通りです。ただし、金融機関によって必要書類が異なる可能性がありますので、事前に金融機関に必要書類を確認するようにしましょう。
【一般的な必要書類】
- 各金融機関の届出書
- 遺産分割協議書
- 被相続人の出生から死亡時までの連続した戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 本人確認書類
預貯金のみを遺産分割(一部分割)する場合の注意点
遺産分割手続では遺産の一部のみを分割することもできます。そのため、急ぎで預貯金を引き出す必要がある場合には、預貯金のみを遺産分割(一部分割)することもできます。ただし、一部分割であることや、残りの財産を分割する時に一部分割したことを考慮するかどうかを明確にしておく必要があります。
遺産分割前の相続預貯金の払い戻し制度
相続法の改正で新しく遺産分割前の相続預貯金の払戻制度ができました。この制度を利用することで、遺産分割前に預貯金の一部について払い戻しを受けることができます。
具体的には、それぞれの預貯金について、【預貯金の額の3分の1×払い戻しを受ける相続人の法定相続分】の額の払い戻しを受けることができます。ただし、各金融機関ごとに150万円の上限があります。なお、払い戻しを受けた金額については、遺産の一部分割により取得したものとみなされます。
仮分割の仮処分
遺産分割前の預貯金の払戻制度には上限があるため、多くの資金が必要な場合には対応しきれません。このような場合には、遺産分割調停や審判の申立てと共に仮分割の仮処分の申立てをすることが考えられます。仮分割の仮処分をされると預貯金債権を仮に取得したことになり、預貯金の払い戻しを受けることができます。なお、仮分割した預貯金を含めて調停や審判を行うことになります。
遺産分割成立前の預貯金の引き出しはトラブルの原因
遺産分割成立前に預貯金を引き出すと、他の相続人に不信感を持たれて、いわゆる使途不明金として相続争いの原因になる場合があります。また、相続放棄を検討している方の場合、預貯金の引き出しが法定単純承認に該当して相続放棄が認められなくなる可能性があります。遺産分割前の相続預貯金の払戻制度には、相続人全員の合意や裁判所の審査が必要ありません。遺産分割前に預貯金が必要な場合には、まずこの制度の利用から検討すると良いでしょう。
遺言書がない場合は相続人全員による預貯金の遺産分割手続きが必要
ここまで、預貯金について遺産分割が必要なことを前提に解説してきましたが、実は、下記の平成28年の最高裁決定が出るまでは、預貯金は法定相続分に従って当然に分割され、遺産分割の対象ではありませんでした。応用編ですので、ご興味がある方だけご覧ください。
【応用編】 従来、預貯金債権は相続開始によって当然に分割され、各相続人が相続分に応じて権利を承継するものと扱われており、遺産分割の対象外でした。そのため、法律上は各相続人は遺産分割手続をせずに預貯金の払い戻しを受けることができました。 しかし、最高裁平成28年12月19日決定で「普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」と判断され、最判平成29年4月6日で定期預金債権や定期積金債権についても同様の判断がされたことにより従前の扱いが変更されました。 預貯金債権は相続開始によって当然に分割されず、遺産分割の対象ということになります。遺言書で預貯金債権の処分について定めていなかった場合、預貯金債権の遺産分割手続が必要です。 |
まとめ
遺言書がない場合の預貯金を分ける一般的な流れは、①残高確認、②分割方法の協議、③遺産分割協議書の作成です。遺産分割協議書の作成に不備があると、金融機関で手続きが出来なかったり、相続人間でトラブルになる可能性があるため特に注意が必要です。
また、遺産分割成立前に勝手に預貯金を引き出すとトラブルの原因になります。遺産分割成立前に預貯金が必要な場合には、①遺産分割前の相続預貯金の払戻制度、②預貯金のみを遺産分割する③仮分割の仮処分といった方法を検討しましょう。遺産相続にお悩みの方は弁護士にご相談下さい。
※遺産分割に関する相談をご希望の方は、「遺産分割協議・調停・審判」をご覧ください。 |
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