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Q. 家族信託が必要ないケースとは? 必要なケースや必要のないケースについて解説

2024年9月13日更新

高齢者と嫁

【この記事の内容】

・家族信託のおおまかな流れ

・家族信託が必要な場面
・家族信託が必要ない場面


家族信託の件数は年々増加しており、生前対策として家族信託が利用できることをご存じの方もいらっしゃると思います。家族信託と他の生前対策にはさまざまな違いがあり、メリットもありますが、デメリットもあります。生前対策はケースに応じて適切なものを行うべきであり、すべてのケースで家族信託が必要という訳ではありません。むしろ、安易に家族信託を利用するとトラブルの原因になります。この記事では家族信託について簡単に解説した上で、家族信託が必要な場面や必要ない場面について解説いたします。

家族信託とは

①家族信託の基本的な登場人物、②家族信託のおおまかな流れ、③家族信託を理解する上で重要なポイントについて簡単に説明した後、具体的な事例に基づいて解説いたします。

家族信託の基本的な登場人物

家族信託の基本的な登場人物は以下の通りです。

  • 委託者
    信託する人のことです。信託する方法はいくつかありますが、多くのケースでは受託者に財産の所有権を移転させ、信託の目的に従った財産の管理等を任せる契約(信託契約)を締結します。なお、家族信託の契約書は一般的には公正証書で作成します。
  • 受託者
    信託の目的に従って財産の管理・活用等を行う義務を負う人のことです。
  • 受益者
    信託された財産について利益を受ける人のことです。
  • 権利帰属者等
    信託が終了した後に残った財産を受け取る人のことです。

家族信託のおおまかな流れ

家族信託のおおまかな流れは以下の通りです。

①委託者から受託者に財産を移転させる
②受託者が信託の目的に従って財産の管理・活用等を行う
③信託が終了した後に、余った信託財産を権利帰属者等に帰属させる

家族信託を理解する上で重要なポイント

家族信託を理解する上で重要なポイントは、委託者から受託者に財産の名義が移転するものの、名義の移転は信託目的を達成するための手段でしかなく、信託財産は受託者の固有財産とは分別して管理されるものであるという点にあります。信託財産について利益を得るのは受託者ではなく受益者です。信託が終了した後に残っている信託財産が帰属するのも受託者ではなく権利帰属者等です。受託者の報酬を定めることは可能ですが、受託者が信託財産を管理・活用等をすることによって生じる利益を得る訳ではありません。

具体的な事例に基づく解説

以下の事例について家族信託を行う場合について考えてみましょう。

【本人の希望】
・近頃、物忘れが多く体力的にも収益物件の管理に負担を感じるようになってきたため、収益物件の管理を長男に任せたい。
・収益物件から得られた利益から今後の生活費等を捻出したい。
・施設に入所する際の資金が必要な場合等、必要に応じて収益物件を売却しなければならないとも考えている。
・可能であれば自分の死後に収益物件を息子に承継させたい。

本人の希望を実現するためには以下のような内容の家族信託を行うことが考えられます。

委託者:本人
受託者:長男
受益者:本人
委託者が死亡し、信託が終了した場合の権利帰属者:長男
信託の目的:
・本人が安心・安定した生活を送ること
・上記目的に抵触しない範囲で長男が財産を承継すること

上記家族信託を行うと、まずは委託者である本人から受託者である長男に収益物件の所有権を移転させることになります。次に、受託者である長男は信託の目的に従って収益物件の管理等を行います。本人が安心・安定した生活を送るために、収益物件から得られた利益を生活費等として本人に渡したり、収益物件の運営に必要な改修をしたりすることになります。長男が財産を承継する目的は、本人が安心・安定した生活を送る目的に抵触しない範囲で設定していますから、場合によっては収益物件を売却し、施設の入居費用等に充てることも想定されています。最後に、本人が死亡し信託が終了した後に収益物件が残っていれば、収益物件が長男に帰属します。

なお、実際に信託契約を行う際には受託者を監督する仕組みをどうするのか、信託契約を解除した場合の帰属先、税金等についても考慮する必要がありますが、ここでは簡単に説明するために省略しています。

家族信託が必要な場面

家族信託が必要な場面はさまざまですが、そのうちのいくつかをご紹介いたします。

自宅を売却する予定がある

施設に入るタイミングで自宅を売却する予定があるケースでは、家族信託が必要な場合があります。任意後見や法定後見といった成年後見制度でも、本人を支援・保護するために必要であれば、施設に入るために自宅を売却することは可能です。しかし、任意後見や法定後見による支援や保護が開始されるのは、本人の判断能力が衰えた後に手続きを行ってからです。そのため、手続きが時間がかかり、すぐには売却ができず、施設に入る資金に困ってしまうことがあります。また、自宅を売却した後も原則としては任意後見や法定後見が継続するため、後見事務にかかるコストや後見人の報酬等のランニングコストが必要になります。親族のフォローがあり、自宅を売却できれば生活に支障はないというケースの場合には、後見制度を利用すると必要性の高くない支援・保護のためにランニングコストが必要になってしまうことがあります。

収益物件などの積極的に運用したい資産がある

本人が健康な内は問題ありませんが、認知症等によって判断能力が衰えると預貯金や不動産の管理等を適切に行えなくなったり、そもそも無効になってしまうこともあります。判断能力の衰えへの対策としては、家族信託や任意後見制度、法定後見制度等があります。家族信託では収益物件のリフォームといった積極的な資産運用が可能ですが、任意後見制度や法定後見制度では難しくなります。判断能力が衰えた後も資産を積極的に運用することができることは、家族信託のメリットの一つです。

相続人が適切に管理できない財産がある

相続人が適切に管理できない財産を相続させてしまうと、適切に管理できずに困ったり、詐欺などの被害を受けてしまうリスクがあります。このようなリスクは家族信託を用いて適性のある受託者に財産の管理等を任せることで防止することが可能です。例えば、配偶者が高齢で賃貸物件の管理をすることが難しいケースについて考えてみましょう。このようなケースでは、賃貸物件を配偶者に相続させるのではなく、家族信託を用いて賃貸物件の管理をする適性のある子どもに賃貸物件の管理を任せ、その収益を配偶者に帰属させることが考えられます。こうすることで、財産を適切に管理できない相続人が財産を管理することで生じるリスクを防止しつつ、その財産から得られる利益を相続人に帰属させることができます。また、子どもに障がいがあり適切に財産を管理できないケースでも家族信託を利用することで、親の死後も受託者に財産を管理してもらい、毎月一定額を子どもに振り込んでもらうといった対策が可能です。

できる限り自分の意思に基づいて財産を承継させたい

実は遺言書を作成しても、亡くなった後の財産承継が遺言書通りにならないケースもあります。例えば、遺言の対象財産を本人が処分してしまった場合や、成年後見人が遺言を知らずに処分してしまった場合には、遺言通りになりません。また、相続人全員の合意によって遺言と異なる遺産分割協議をすることができる場合もあります。

家族信託を用いれば本人や成年後見人が信託財産を処分することはできません。また、相続人全員の合意で家族信託と異なる処理を行うことはできません。そのため、できる限り自分の意思に基づいて財産を承継させたい場合には家族信託が有用です。

【応用編】

ここから先は応用編になります。興味がある方はご一読下さい。

事業承継

事業承継の際に家族信託を用いることで下記のようなメリットがありますが、事業承継の際に贈与税や相続税の納税を猶予される制度(事業承継税制)の利用ができなくなるといったデメリットもあります。下記のようなメリットを受けるには家族信託が必要ですが、家族信託によって支障が生じないかという点については特に気を付ける必要があります。

【主なメリット】

受託者である後継者が株式の譲渡を受けることで経営を行いつつ、委託者である本人も株式の議決権行使の指図権を行使することで経営に関与することができる。
受託者が後継者としてふさわしくなかったことが分かった場合には信託を解除できるようにしておくことで、その後継者への事業承継を取りやめて別の後継者を探すこともできる

財産を承継した人が死亡した後の継承先についても決めておきたい

遺贈する際に、遺贈を受けた人が死亡した後に財産を承継する人を決めておくこと(このような遺贈を後継ぎ遺贈といいます)が可能であれば、財産を承継した人が死亡した後の継承先についても決めておくことができます。しかし、後継ぎ遺贈の有効性は不明確であり、実務上はリスクが高く使えません。

他方で、家族信託では財産を承継した人が死亡した後の継承先についても決めておくことが可能です。例えば、受益者を本人、本人が死亡した場合の二次的な受益者を子、子が死亡した場合の三次的な受益者を孫とすることで、本人から子、子から孫へと受益者を変更していく形で実質的に財産を承継させることができます。ただし、ずっと先の将来についても継承先を決めることができると様々な問題があるため、信託契約をした時から30年経過した後に受益者になった人の代で信託は終了します。これだけではわかりにくいため、上記の例で説明いたします。2025年に信託契約を行い、2060年に本人が死亡し、子が受益者になったた場合には、信託契約をした時から30年を経過後に子が受益者になっているため、子の代で信託が終了します。そのため、三次的な受益者を孫にしていたとしても孫は受益者になれません。

任意後見の実効性を更に担保したい

任意後見では、受任者が本人の意思を尊重しなかったり、本人の心身の状態及び生活の状況に配慮しなかったりした場合には、受任者の解任や、受任者への損害賠償請求が可能です。解任や損害賠償請求によって任意後見の実効性が担保されているということになります。

家族信託を用いることで任意後見の実効性を家族信託という切り口からも担保することが可能です。例えば、任意後見の受任者を家族信託の帰属権利者とした上で、任意後見の受任者が本人の意思を尊重しなかったり、本人の心身の状態及び生活の状況に配慮しなかったりした場合には、委託者もしくは受益者指定変更権者が帰属権利者を変更することができる旨の条項を定めておくことが考えられます。こうすることで、任意後見の受任者は任意後見を適切に行わなければ、信託終了時に残った財産の帰属を受けることができなくなる可能性があるため、任意後見を適切に行う理由になり、任意後見の実効性を更に担保することが可能です。

家族信託のデメリット

財産の管理等に適性があり、信頼できる人が必要

財産の管理等に適性がなかったり、信頼できない人に財産を託すと、権限を濫用されてしまうといったトラブルの原因になります。受託者にふさわしい人が見つからず、家族信託の利用ができないということも多いのが実情です。

取り扱いが固まっていない部分が少なくない

家族信託は比較的新しい制度であり、取り扱いが固まっていない部分が少なくありません。例えば、家族信託と遺留分の関係は解釈に委ねられており、裁判例における取り扱いも固まっていません。思わぬ形で遺留分を侵害してしまうリスクだけでなく、信託自体が無効になってしまうリスクもあります。家族信託を保守的に利用することでこのようなリスクを軽減することは可能ですが、家族信託を利用する際には注意が必要です。

仕組みが複雑で正確な理解が難しくなりやすい

家族信託は登場人物が多くなりやすく、税金面の取り扱いも難しいことが少なくありません。また、信託財産が受託者に移転するものの、信託財産について利益を得るのは受益者であることなど、理解が難しい部分もあります。このように、家族信託には仕組みが複雑で正確な理解が難しくなりやすいというデメリットがあります。仕組みが複雑で正確な理解が難しいほど、適切に利用することが難しくなります。また、求められる判断能力が高くなるため、家族信託が無効になってしまうリスクも相応にあります。家族信託の検討や準備は健康なうちに早めに行っておくと良いでしょう。

生活や療養看護の支援や保護を任せることはできない

家族信託は財産の管理・活用等を任せる制度であり、生活や療養看護の支援や保護を任せることはできません。もっとも、介護サービスの契約や施設に入居する際の契約等を任せたい場合には、任意後見契約を併用することで補完することが可能です。

農地のまま信託財産にすることはできない

家族信託で農地を信託しても、農業委員会の許可を受けることができないため、農地を信託財産にすることはできません。農地である土地を信託財産にしたい場合には、農地転用を行い農地以外の土地にする必要があります。

信託には費用がかかる

信託は仕組みが複雑なこともあり、適切に家族信託を行うには専門家のサポートが不可欠です。そのため、専門家にサポートを依頼する報酬を支払う必要があります。また、信託契約書は公正証書で作成することが一般的であり、公正証書を作成するコストも必要です。信託登記や信託登記の抹消等をする際に登録免許税もかかります。このようなコストが必要になるため、信託には費用がかかります。

家族信託が必要のない場面

家族信託は問題への対策の一つに過ぎません。抱えている問題や具体的な状況に応じて適切な対策を取ることが重要で、家族信託が必要ないケースもあります。例えば、認知症等によって財産の管理や処分等ができなくなってしまうことへの対策としては、任意後見や法定後見、生前贈与等があります。例として、2つのケースについて解説いたします。

収益物件などの積極的に運用したい財産がない

収益物件などの積極的に運用したい財産がない場合には、任意後見制度や法定後見制度を利用した方が良いケースもあります。任意後見制度や法定後見制度は、財産の積極的な運用には向いていませんが、身上監護が可能な上、網羅的な財産管理を行うことも可能です。

主な財産が預金

主な財産が預金の場合には、各金融機関の指定代理人制度を利用することで十分な場合があります。指定代理人制度は本人の判断能力が十分なうちに、本人に代わって出金を行うことができる代理人を指定しておく制度です。あらかじめ代理人を指定しておくことで本人の判断能力が衰えて本人自身ではお金を引き出すことができなくなった場合でも、代理人が本人に代わって出金することができるようになります。もっとも、金融機関によっては本人の判断能力が衰えてしまった場合には代理人による出金に応じないということもあるため注意が必要です。代理人制度を利用する場合には取り扱いについて十分に確認しておく必要があります。

なお、特に対策をしないまま本人が認知症になってしまい預金が凍結されてしまった場合でも医療費等については金融機関が出金に応じてくれることもあります。対策をせずに預金が凍結されてしまったとあきらめずに金融機関に問い合わせをすることで問題が解決することもあります。

まとめ

以上、家族信託が必要なケースや必要ないケースについて解説いたしました。家族信託を適切に利用するには、遺言や任意後見、法定後見等の制度も吟味する必要があります。また、家族信託を利用する際には、家族信託の効力や内容をしっかりと理解する必要もあります。具体的なケースに応じて他の制度も吟味したり、家族信託の効力や内容を理解するには専門家のサポートが有用です。家族信託が難しいことは否めませんが、家族信託にしかできないことも多くあります。生前対策にお悩みの方や家族信託の利用を検討している方は、まずは気軽に家族信託に詳しい弁護士までご相談ください。


【記事監修者】

弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや)  
第二東京弁護士会所属  中央大学法学部法律学科卒業

【代表弁護士白土文也の活動実績】
・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信)
・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師
・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇
その他、取材・講演多数
  
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