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Q. 祭祀承継者とは?相続財産とは異なるお墓の承継の決め方について解説
2024年1月25日更新
【この記事の内容】 お墓は相続の対象外 祭祀承継者の決め方や条項例 お墓を承継するメリットやデメリット お墓を承継する手続き 祭祀承継を拒否したいのに祭祀承継者に指定された場合の対処法 |
相続が開始した際にお墓の承継も問題になりますが、実はお墓の承継は相続とは異なる手続きで決まります。この記事ではお墓を承継する手続きやお墓を承継するメリットやデメリットなどについて解説します。
お墓は相続手続きや相続税の対象外
お墓は相続財産ではなく、祭祀財産(お墓や家系図、位牌など)として祭祀承継者が承継します。祭祀承継者とは祭祀財産の所有権や墓地使用権を承継する者のことです。お墓は相続の対象外で、原則として相続税の対象にもなりません。
祭祀承継者(祭祀を主宰すべき者)の決め方・指定方法について
祭祀承継者の決め方は以下の通りです。
(1) 被相続人の指定
被相続人が祭祀承継者を指定している場合、指定された者が祭祀承継者になります。指定方法に制限はなく口頭でも指定できますが、遺言書で指定すると指定が明確になります。祭祀承継者になり手間や費用がかかる分、財産を多く遺すといったことも可能です。なお、トラブルを予防するため、指定する際には指定される方の意向を確認すると良いでしょう。
遺言書で祭祀承継者を指定する場合の条項例は以下の通りです。
第〇条 遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として、遺言者の長男〇〇(昭和〇年〇月〇日生)を指定する。 第〇条 前項で指定した者が、遺言者よりも先に死亡した場合は、遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として遺言者の二男〇〇(昭和〇年〇月〇日生)を指定する。 |
この条項例では、祭祀承継者として指定された方が遺言者よりも先に亡くなる場合の祭祀承継者についても定めています。遺言書を再度作成するには手間や費用がかかりますし、遺言者が認知症になってしまうなどそもそも再度作成することができない状況の場合もあるためです。
※遺言書の作成に関する相談をご希望の方は「遺言書作成」をご覧ください。 |
(2) 慣習
被相続人の指定がない場合、慣習に従って祭祀承継者が決まりますが、通常、慣習は認められません。
(3) 家庭裁判所における祭祀承継者指定の審判
申立人以外の相続人や法律上の利害関係を持つ親族などを相手方として、家庭裁判所に祭祀承継者指定審判の申立てを行い、家庭裁判所が審判により祭祀承継者を指定します。
(4) 家庭裁判所における祭祀承継者指定の調停
祭祀承継者の指定については、審判ではなく調停を申し立てることもできます。調停では裁判所関与の下、合意を目指して話し合いを行います。合意できなかった場合には審判に移行します。
(5) 相続人を含む関係者の合意
相続人や利害関係を持つ親族などの関係者の合意で祭祀承継者を定めることができるかは、条文上明らかではなく、原則として定めることはできない旨の裁判例もありますが、基本的には関係者の合意で祭祀承継者を定めることができると考えられています。実際上も関係者の協議で祭祀承継者を定めることも多くあります。
(6) 遺産分割調停
祭祀承継者の指定と遺産分割は本来異なる手続きですが、当事者全員に争いがない場合は、遺産分割調停で祭祀承継者を指定し祭祀財産を取得させることも可能です。
遺産分割協議書で祭祀承継者について記載する場合(例文あり)
前述の通り祭祀承継者の指定と遺産分割は本来異なる手続きですが、当事者全員の合意が得られる場合、遺産分割協議書に祭祀承継者の指定について記載しても問題ありません。遺産分割協議書で祭祀承継者の指定について合意する場合の条項例は以下の通りです。
第〇条 当事者全員は、〇〇家の祭祀の承継者を甲とすることに合意する。 |
※遺産分割に関する相談をご希望の方は「遺産分割協議・調停・審判」をご覧ください。 |
祭祀承継者の権利・義務と承継する場合のメリットとデメリット
祭祀承継者は祭祀財産の所有権や墓地使用権を承継しますが、祭祀を行う義務はありません。そのため、以下のようなメリットやデメリットがあります。
(1) メリット
お墓を自由に管理処分できます。例えばお墓を自宅の近くに移転したり、永代供養にしたり、墓じまいをしたりすることが可能です。もっとも、親族に無断で行うとトラブルになる可能性があります。事前に親族と話し合いをすべきでしょう。
(2) デメリット
主なデメリットとして、お墓を維持管理する手間や費用がかかることが考えれらます。
お墓を承継する手続き
祭祀承継者はお墓の使用権の名義変更を行います。必要な手続きや書類はお寺や霊園によって異なる場合があるため、必ずお寺や霊園に確認しましょう。例えば都立霊園で必要な書類等は以下の通りです。
- 承継使用申請書
- 誓約書
- 印鑑登録証明書
- 申請者の戸籍謄本
- 名義人と申請者の戸籍上のつながりが確認できる戸籍謄本など
- 東京都霊園使用許可証
- 手数料
- 郵送料
祭祀承継を拒否したい場合。相続放棄は可能か?
祭祀承継を拒否することはできないと考えられています。また、祭祀承継者の指定と相続は別の手続きであるため、相続放棄をしても祭祀承継を拒否できません。祭祀承継者指定の調停や審判の際には、祭祀承継者として指定されないように祭祀承継者になりたくないことを含め様々な事情を主張立証する必要があります。
祭祀承継者として指定されたものの、お墓の維持は難しいという場合には墓じまいも可能です。ただし、親族に無断で墓じまいをするとトラブルになる可能性がありますし、親族と話合うことで無理のない範囲でお墓を維持することができる場合もあるでしょう。お墓の維持が難しい理由(例えば維持管理の手間や費用)を含めて墓じまいについて親族と話し合うと良いでしょう。
まとめ
お墓の承継は相続とは異なる手続きで行われるため注意が必要です。また、祭祀承継者になるとお墓の維持管理についてはもちろん、墓じまいをする場合でも手間や費用がかかります。祭祀承継者を指定する遺言書を作成したい、祭祀承継者が決まっておらず困っているといった場合には弁護士までご相談ください。
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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