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Q. 相続人と連絡が取れない場合の遺産分割協議・遺言執行・相続放棄について解説
2023年9月29日更新
連絡が取れない相続人がいる場合、相続手続きに様々な影響があります。例えば、遺産分割協議は相続人全員で行わなければ無効となってしまうため、連絡が取れない相続人がいると遺産分割協議をすることはできません。また、遺産分割協議をせずに放置した場合、放置している間に相続人が亡くなると、亡くなった相続人の相続人を含めた全員で遺産分割協議をしなければならず、合意が困難になることもあります。
この記事では、連絡が取れない相続人がいる場合にどのように相続手続きを進めれば良いか説明いたします。
相続人と連絡取れない2つのパターンと対処方法
(1) そもそも誰が相続人か分からない場合(相続人調査)
まずは被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本などの収集、読み込みを行い相続人を特定します。次に、戸籍の附票を収集し相続人の住所を特定します。住所が判明したら、相続人の住所宛てに手紙を送り、遺産分割の話を進めていくことになります。
(2) 相続人の所在や行方が不明な場合
誰が相続人かは分かるものの、所在や行方が不明な相続人がいる場合、連絡が取れず遺産分割協議を行うことはできません。その場合の対処方法は二つあります。
ア 不在者財産管理人選任の申立て
家庭裁判所に対し不在者財産管理人選任の申立てを行い、不在者財産管理人に所在や行方が不明な相続人に代わって遺産分割協議を行ってもらいます。
イ 失踪宣告の申立て
家庭裁判所に失踪宣告の申立てを行う方法です。失踪宣告を受けた方は法律上死亡したものとみなされます。この場合、例えば、失踪宣告を受けた行方不明の相続人の相続人(子供など)が遺産分割協議に参加することになります。
ただし、後から実は生きていたことが判明し、失踪宣告が取り消された場合、法律関係が複雑になります。また、申立てから失踪宣告まで通常1年程度かかるため、不在者財産管理人選任の申立てより時間がかかります。そのため、失踪宣告の要件を満たしている場合でも失踪宣告の申立てをするか、不在者財産管理人選任の申立てをするかは慎重に判断すべきでしょう。
連絡を無視されて遺産分割協議に応じてもらえない場合の対処方法
相続人に連絡をすることはできても無視される場合もあります。この場合は、無視される理由に応じて手紙の内容を工夫する必要があります。
例えば、遠い親戚で知らない関係の場合や遺産分割協議に関する連絡を詐欺だと思っている場合もあります。このような場合は、特に丁寧な説明が必要です。不仲の場合には遺産分割協議に応じる相手方のメリットを説明することが有効な場合もあります。また、弁護士などの第三者が連絡することで遺産分割協議に応じる場合もあります。自分で連絡するのが難しい場合には、弁護士に代理人になってもらうことも可能です。
相手方がどうしても協議に応じない場合は、遺産分割調停や遺産分割審判の申立てを行います。遺産分割調停は裁判所の関与の下、相続人全員の合意の形成を目指す手続きです。裁判所が関与するため当事者のみで遺産分割協議を行う場合と比べて、相手方が協議に応じる可能性が高くなります。それでも、相手方が協議に応じない場合には調停が不成立となりますが、その場合は、自動的に審判に移行します。審判では相手方が協議に応じない場合でも、裁判所が遺産分割について判断を下します。審判が確定した後に審判書に基づいて相続手続きをすることが可能となります。相手方が協議に応じる見込みがない場合は最初から遺産分割審判の申立てを行うことも考えられますが、話し合いによる解決が望ましいとして調停手続に回されることが多いでしょう。
なお、弁護士が粘り強く連絡を取って協議により遺産分割の成立を目指すべきか、早めに調停や審判の申立てを行うべきかはケースバイケースです。例えば相続手続きに関与したくないという理由で連絡が取れない場合でも、粘り強く連絡を取ることで遺産分割協議が成立することもあります。もともと相続に関心がないため、連絡が取れない相続人の取り分がない形で遺産分割協議をすることができ、依頼者を含む他の相続人の取り分が増える可能性もあります。一方で、遺産分割審判では基本的に法定相続分に従った判断がされることになるため、遺産分割審判では連絡が取れない相続人の取り分がない形で遺産分割をすることは基本的にできません。このように粘り強く連絡をとることの方が早めに調停や審判の申立てを行った場合より依頼者の利益になる場合もあります。もっとも、結果的には調停・審判を申立てた方が良かったというケースも少なくありませんので、どのように進めるべきか弁護士のアドバイスを受けると良いでしょう。
相続人と連絡が取れない場合の遺言執行
ここまでの解説のとおり、相続人と連絡が取れない場合は、遺産分割協議が困難になる可能性があります。
一方で、もし、遺言書ですべての遺産の分け方が決められている場合は相続人全員による遺産分割協議は不要となり、遺言執行者がいる場合には、遺言執行者のみで相続手続きを進めることが可能です。そのため、すべての遺産の分け方を決めてあり、遺言執行者の定めのある遺言書を作成しておけば、所在や行方が不明な相続人がいた場合でもスムーズに相続手続きを進めることができます。所在や行方が不明な推定相続人がいる場合には、すべての遺産の分け方や遺言執行者の定めのある遺言書を作成すべきでしょう。
なお、遺言書の作成時には方式の定めや財産の特定など注意すべき点が多いため、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
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他の相続人と連絡が取れない場合の相続放棄
相続放棄をした場合、連絡が取れない相続人にどう対処すべきか疑問に感じることも多いと思います。結論から言うと、他の相続人に相続放棄をしたことを知らせる法的義務はありません。そのため、連絡が取れない相続人に知らせなくても問題はありません。
ただし、相続放棄が他の相続人に与える影響を考慮すると、関係の悪化などの不要なトラブルを防止するために連絡が取れる相続人には相続放棄したことを伝えるべき場合もあるでしょう。特に、同順位の他の相続人や、同順位の他の相続人がいない場合の次順位の相続人は相続放棄の影響を直接受けるため、事前に相続放棄の意向を伝えることも検討すべきでしょう。
(関連記事)「Q. 相続放棄の前後でやってはいけないこととは?注意点を解説」 |
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【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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