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Q. 無償で貸したものを返してもらえる場合とは?使用貸借契約の解除等について解説
2024年10月22日更新
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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【この記事の内容】 ・使用貸借が終了するケース ・解除権の行使方法 ・終了時の借主の義務 |
親族に無償で土地を貸していたが返してもらうことができるのかといったお悩みをお持ちの方もいらっしゃると思います。無償で物を貸すことを使用貸借といいますが、使用貸借が終了すると、借主に対して貸した物を返すよう求めることができますが、終了していない場合は返還を求めることができません。この記事では相続でも問題になることが多い使用貸借について、終了する主な場合や終了時の借主の義務等について解説いたします。
終了するケースのまとめ
使用貸借は期間・目的が定められているか、定められていないかによって終了するケースが異なります。また、期間・目的の定めにかかわらず終了するケースもあります。まずは、それぞれのケースについて表にまとめました。
【期間・目的の定めの有無ごとに異なる使用貸借が終了するケース】
目的が定められている | 目的が定められていない | |
期間が定められている | 期間満了→当然に終了 | 期間満了→当然に終了 |
期間が定められていない | ・目的に従い使用収益を終える→当然に終了 ・目的に従い使用収益をするのに足りるべき期間を経過→貸主が解除できる | 貸主がいつでも解除できる |
【期間・目的の定めにかかわらず終了するケース】
借主が死亡 | 当然に終了する。ただし、借主が死亡しても終了しない合意をすることは可能。借主が死亡しても終了しない場合には、借主の相続人が借主の地位を承継する。 |
借主が貸主の承諾なく第三者に使用収益させた | 貸主が解除できる |
当事者間の信頼関係破壊 | 貸主が解除できる |
以下では、上記の表に記載した各ケースについて解説いたします。
使用貸借の期間が定められている
使用貸借の期間が定められている場合、使用貸借契約は期間満了により当然に終了します。ただし、自動更新条項が定められている場合には、契約更新に注意が必要です。なお、自動更新条項の例としては以下のようなものが考えられます。
【自動更新条項の例】 期間満了3か月前までに、貸主・借主のいずれからも書面による契約終了の意思表示がない場合には、契約は2年間更新されるものとし、以降も同様とする。 |
使用貸借の期間及び目的が定められていない使用貸借
使用貸借の期間及び目的が定められていない場合、貸主は使用貸借契約をいつでも解除することができます。もっとも、期間及び目的が定められていないと判断した裁判例は少ないのが実情です。
使用貸借の目的は定められているが、期間は定められていない使用貸借
それでは、期間は定められていないが目的は定められている場合は使用貸借契約はいつ終了するのでしょうか。この場合、目的に従い使用収益を終えると使用貸借契約は当然に終了します。
また、目的に従い使用収益を終えていなくても、目的に従い使用収益をするのに足りるべき期間を経過している場合には、貸主は使用貸借契約を解除することができます。
【応用編】 ※土地の使用貸借における目的に従い使用収益をするのに足りるべき期間の経過 目的に従い使用収益をするのに足りるべき期間を経過しているかどうかはどのように判断すれば良いでしょうか?最高裁平成11年2月25日判決が土地の使用貸借における目的に従い使用収益をするのに足りるべき期間の経過について判断しているためご紹介いたします。 最高裁平成11年2月25日判決は貸主と借主双方の諸事情を比較衡量して判断しました。諸事情として以下のような事情を挙げています。 【最高裁平成11年2月25日判決が諸事情として挙げた事情】 ・経過した年月 ・土地が無償で貸借されるに至った特殊な事情、その後の当事者間の人的つながり ・土地使用の目的、方法、程度 ・貸主の土地使用を必要とする緊要度 【最高裁平成11年2月25日判決の判断】 最高裁平成11年2月25日は、下記の点を指摘した上で、高裁がその他の事情を考慮することなく使用収益をするのに足りるべき期間を経過していないと判断したことは違法であると判断しました。 ・使用を始めてから約38年8か月の長年月が経過している ・借主と同居していた貸主(会社)の代表取締役は死亡し、その後、貸主の経営をめぐって取締役である借主と別の取締役と利害が対立し、借主は取締役の地位を失っており、使用貸借成立時と比べて貸主と借主の人的つながりの状況は著しく変化している ・建物が朽廃していないことは考慮すべき事情ではない ・借主には他に居住するところがなく、貸主には使用する必要等特別の事情は生じていないが、これだけでは上記期間が経過したことを否定する事情としては不十分である |
期間・目的の定めにかかわらずに使用貸借契約が終了するケース
下記のケースは期間・目的の定めにかかわらないケースです。
当事者間の信頼関係破壊
貸主と借主の信頼関係破壊による解除を認めた判例があります。事例ごとに様々な事情が考慮されており、信頼関係破壊による解除を検討する際には、ケースに応じた判断が必要です。なお、多くの事例では借主の帰責性が考慮されていますが、信頼関係破壊による解除は借主によって信頼関係が破壊された場合に限られない旨の判断をしている裁判例(名古屋高裁令和2年1月16日判決)があることには留意が必要です。
借主が死亡
民法では使用貸借は借主の死亡によって終了する旨規定されています。もっとも、借主が死亡しても終了しない旨合意することは可能であり、裁判例でも借主が死亡しても終了しないと判断したものがあります。借主が死亡しても終了しない場合には、借主の相続人が借主の地位を承継することになります。
借主が貸主の承諾なく第三者に使用収益させた
借主が貸主の承諾なく第三者に借りている物を使用又は収益させた場合には、貸主が使用貸借契約を解除することができます。
貸主の返還請求が権利の濫用になることもある
既に解説した通り、使用貸借が終了している場合、貸主は借主に貸したものを返すよう請求することができます。しかし、例外的に権利濫用として貸主の返還請求が認められないこともあります。
例えば、東京高裁昭和49年9月27日判決は、借主としては特段の事情がない限り本件建物に引き続き永く居住できると期待しており、貸主としてもそのことを容認していたような場合には、建物の明渡請求は特段の事情がない限り権利の濫用として許されない旨判断した上で、貸主と借主の事情についてそれぞれ下記の点を指摘し、本件建物の明渡請求は権利濫用にあたる旨判断しました。
貸主の事情
- 貸主は独身で差し当たって住居の緊急な必要性に迫られているとは認められない
借主の事情
下記の事情からすると本件建物を明け渡すと借主の生活が根本的に破壊される
- 本件建物は一家四人の生活の本拠
- 転居するだけの経済的余裕があるとは認められない
解除権の行使方法
借主に対して内容証明郵便で解除の意思表示をすることで解除権を行使することが一般的です。内容証明郵便を用いることで証拠を残すことができます。
終了時の借主の義務
使用貸借が終了すると借主は下記の義務を負います。
返還義務
借主は借りたものを返す義務を負います。
収去義務
借主は借りた物に附属させた物を取り除く義務を負います。ただし、分離が不可能な場合や過分の費用を要する場合は収去義務を負いません。なお、借主には収去する権利があるため、使用貸借中に収去することや、過分の費用を支払って収去することも可能です。収去することで自分の物にすることができます。
原状回復義務
借主には借りた物に生じた損傷を借りた時点の状態に戻す義務があります。もっとも、借主に帰責性のない損傷については原状回復義務を負いません。また、通常の使用収益に生じる損耗や経年変化については、それぞれの使用貸借契約の解釈によって原状回復義務を負うかどうかが決まります。
まとめ
使用貸借が終了になるケースには様々なものがありますが、そのなかでも目的に従い使用収益をするのに足りるべき期間の経過や、信頼関係破壊の判断は様々な事情を考慮する必要があり、判断が難しいでしょう。貸したものを返してもらえるのかよくわからない、不安だという方は、しらと総合法律事務所にご相談下さい。
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