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Q. 【負動産問題】土地の共有持分を放棄する方法について解説
2023年8月11日更新
相続その他の理由で親族や他人と不動産を共有していることがありますが、共有不動産には、権利関係が複雑になったり、管理や処分が自由にできないなどの問題があります。そのため、可能な限り共有状態を解消することが望ましいでしょう。共有状態の解消のためには、通常であれば、共有者間で共有物分割の協議を行いますが、固定資産税などの負担はある一方で、買手も見つからず、利用する予定もない、いわゆる負動産の場合、共有物分割がうまく進まないのも現実です。
この記事では、共有状態を解消する方法の1つである共有持分の放棄について解説いたします。
共有持分の放棄について
民法では、共有持分の放棄について以下の定めがあります。
【民法第255条】 「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。」 |
このように、共有持分を放棄すると、放棄した持分は他の共有者に帰属することになります。
共有持分を放棄する具体的な手続き
(1)内容証明郵便を送る
例えば、AとBが土地を共有している状態で、Aが持分を放棄したい場合、AはBに対して、自己の共有持分を放棄する旨を内容証明郵便で通知する必要があります。法律上は、内容証明郵便で通知することは義務付けられてはいませんが、通知したことを証拠に残すため内容証明郵便を利用しましょう。
(2)登記は共同申請
共有持分を放棄する旨の通知をしただけでは、登記名義が変更になるわけではないため、登記名義を変更するために持分の移転登記手続きを行う必要がありますが、持分の移転登記は原則として持分を放棄した者と、持分を取得した者が共同で申請するものとされています(不動産登記法60条)。
なお、固定資産税は1月1日時点の登記に基づき課税されるため、他の共有者の協力が得られず翌年の1月1日までに移転登記ができないと、余分に固定資産税の納付義務を負うことになります。もし移転登記をできないままだと翌々年もその後もずっと納付義務を負い続けることになってしまいますので要注意です。
(3)登記引き取り訴訟
上記のとおり、共同申請により移転登記をする必要がありますが、他の共有者が登記に協力しない場合は、持分の移転登記手続をするよう求める登記引取請求訴訟を提起し、勝訴判決を得ることで単独で移転登記ができるようになります。移転登記の協力が得られず、固定資産税の納付義務を負い続けることになりそうな場合には、訴訟も検討する必要があるでしょう。
共有持分放棄に関する税金
持分を放棄し、個人から個人に持分が移転する場合、持分を取得した人については贈与税が課税される可能性があります。また、持分を取得した人が贈与税を支払わない場合、持分を放棄した人には、贈与税の連帯納付義務があり、贈与税を支払わなければなりません。
共有持分の放棄は早い者勝ち?権利の濫用に注意
共有持分の放棄が次々とされ、最後の一人が残った場合、最後の一人は共有ではなく単独所有になるため共有持分の放棄はできません。また、相続土地国庫帰属制度の要件を満たす場合を除き、法律上所有権を放棄することは出来ないため、不動産を手放すことは出来なくなってしまいます。もちろん、価値のある不動産であれば、共有状態が解消されて単独所有になることで望ましい状態になりますが、次々と共有持分を放棄される不動産は、いわゆる負動産の場合ですので、最後の1人だけが負担を負い続けることになってしまいます。
なお、個別具体的な事情によっては、共有持分の放棄が権利の濫用として許されない場合がありますので、早い者勝ちになるような土地では、権利の濫用について注意が必要です。
共有持分の放棄が権利の濫用と判断された裁判例
東京地裁令和3年7月14日判決は、共有持分の放棄が権利の濫用として許されないと判断しています。
【東京地裁令和3年7月14日判決】 「民法は、共有持分の放棄を明文で認めている一方(民法255条)、権利の行使は信義・誠実に行わなければならないとし、権利の濫用は許されないものと規定しており(民法1条2,3項)、個別具体的な事情の下においては、例外的に,共有者が持分の放棄をすることが許されないこととなることもあり得るものと解される。」 「これまでの原告を含む当初の共有者ら及びその承継人らによる本件各土地の管理・保全の経過、原告の土地の所有状況、崖地である同各土地の適切な管理・保全の観点等に鑑みると、原告以外の同各土地の共有者らにより同各土地の管理・保全を適切に行っていくための態勢が十分に整っているものと認めることができない現時点において、原告が同各土地の管理・保全の役割から解放されるためにその共有持分の放棄をすることは、著しく相当性を欠くものといわざるを得ず、それが権利の濫用であるなどと評価を受けたとしても、やむを得ないものというべきである。」 |
法制審議会民法・不動産登記法部会第19回会議の部会資料
また、法制審議会民法・不動産登記法部会第19回会議の部会資料において、「他の共有者に一方的に負担を押し付ける目的で共有持分を放棄した場合には、通常は権利濫用(民法第1条第3項)に該当すると思われ」と記載されています。
(参考資料)「相続を契機にして取得した土地の国への所有権移転(いわゆる土地所有権の放棄)」P17参照
まとめ
不動産の共有持分の放棄について解説いたしました。内容証明郵便で通知すること、登記手続きが必要なこと、登記手続きに協力を得られない場合には訴訟を提起する必要があること、贈与税の問題、そして、権利の濫用に該当する場合があることなど、共有持分放棄については専門的な検討が必要です。共有持分の放棄をご希望の方は弁護士に相談することをお勧めいたします。
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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