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Q. 相続放棄の前後にしてはいけないこととは?単純承認になるやってはいけないことや注意点を解説
2024年9月4日更新
【この記事の内容】 ・相続放棄をしたい場合にやってはいけないこと ・相続財産の処分について ・相続放棄をせずに放置した場合 ・相続放棄後の相続財産の隠匿・消費について |
被相続人が亡くなった後に預貯金を引き出してしまった場合、相続放棄はできないのでしょうか?といったご相談を受けることがあります。確かに相続放棄ができなくなるケースもありますが、必ずしも相続放棄を諦める必要はありません。この記事では相続放棄を希望する場合にやってはいけないことや注意点について解説いたします。
相続放棄をしたい場合にやってはいけないこと
以下の行為は相続を承認したとみなされ(法定単純承認)、相続放棄ができなくなるため注意が必要です。
【相続放棄前】
- 相続財産の処分
- 相続放棄をせずに放置
【相続放棄後】
- 相続財産の隠匿
- 相続財産の消費
相続財産の処分について
相続財産の処分をしても必ず相続を承認したとみなされる訳ではありません。まず、民法では、相続財産の保存行為や短期の賃貸借は相続を承認したとみなされる処分にあたらないことが定められています。また、相続財産を処分してしまったとしても、その相続財産に交換価値がなく一般的経済価格がない場合や、公平ないし信義則上やむを得ない事情がある場合には相続を承認したとみなされる処分にあたらないと判断した裁判例もあります。
預金を引き出してしまった場合や遺品整理をしてしまった場合でも相続放棄ができることもあります。一般的経済価格や、公平ないし信義則上やむを得ない事情の有無の判断は難しいことも少なくありませんが、相続財産を処分してしまい、相続放棄ができなくなってしまったのではないかとお悩みの方もあきらめずに弁護士にご相談ください。
なお、処分行為としては例えば以下のようなものがあります。
- 預金の引き出し・解約
- 借金や税金の支払い
- 葬儀費用等の支払い
- 遺品整理
- 被相続人が締結していた契約(アパート・マンションの解約等)
- 被相続人が居住していた建物の解体
- 遺産分割協議
処分に関する裁判例
相続を承認したとみなされる処分に該当するか判断した裁判例をいくつかご紹介いたします。
形見分け
形見分けについては相続を承認したとみなされる処分にあたると判断した裁判例と、あたらないと判断した裁判例があります。なお、祭祀財産の引継ぎは相続手続きとは別です。そのため、祭祀承継者は、相続放棄をしたとしても祭祀財産を引き継ぐことができます。
【相続を承認したとみなされる処分にあたると判断した裁判例】
(1) 東京地判平成12年3月21日
決して多額とはいえない相続財産から和服15枚、洋服8着、ハンドバック4点、指輪2個を引き渡した行為について、相続を承認したとみなされる処分に当たる旨判断した裁判例です。
【相続を承認したとみなされる処分にあたらないと判断した裁判例】
(1) 東京高決昭和37年7月19日
交換価値を失う程度に着古したボロの上着とズボン各一着の形見分けについて、一般的経済価格あるものの処分とはいえないとして、相続を承認したとみなされる処分に当たらないと判断した裁判例です。
(2) 山口地裁徳山支部判決昭和40年5月13日
相当多額にあった相続財産から背広上下、冬オーバー、スプリングコート、椅子2脚の形見分けについて、信義則上相続人に放棄の意思がないと認めるに足りる処分ではないとして、相続を承認したとみなされる処分にあたらないと判断した裁判例です。
相続債務の弁済
相続財産から相続債務を弁済したことについて、「まさに相続を承認して相続債務を履行する意思を有し債権者に対してその意思を表示する者にのみ許容される行為と言うほかはない」として、相続を承認したとみなされる処分にあたると判断した裁判例(宮崎家裁日南支部平成10年11月10日審判)があります。他方で、相続人の固有財産から債務を弁済したことについて、相続を承認したとみなされる処分にあたらないと判断した裁判例(福岡高裁宮崎支部平成10年12月22日決定)があります。
裁判例によると、相続財産を使って被相続人の借金や税金を弁済すると相続放棄ができなくなる可能性があるため注意が必要です。どうしても被相続人の借金や税金を弁済したい場合には自分の財産から弁済すべきということになります。
預貯金の解約・葬儀費用
相続財産である預貯金を解約し葬儀費用に支出したことは、以下の理由から相続を承認したとみなされるにあたらないと判断した裁判例(大阪高決平成14年7月3日)があります。この裁判例は預貯金の解約や債務の弁済について、公平ないし信義則上やむを得ない事情を認めた事例として整理することができます。
【判断の理由】
- 葬儀は社会的儀式として必要性が高い
- 葬儀の時期を予想することは困難
- 葬儀は相当額の支出を伴う
- 相続財産があるのに相続財産を使用することが許されず相続人らに資力がないため葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果といわざるを得ない
詳細については下記の関連記事をご確認下さい。
仏壇や墓石の購入
大阪高決平成14年7月3日は、葬儀費用の支出だけでなく仏壇や墓石の購入費用の支出についても判断しています。以下のような点を指摘し、本件では処分に当たるとは断定できないと判断しました。
【指摘した点】
- 仏壇や墓石が社会的にみて不相当に高額のものとも断定できないこと
- 購入費用の一部を自己負担したこと
- 相続債務があることが分からなかったこと
相続放棄をせずに放置した場合
相続放棄は原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません。この期限を過ぎてしまった場合には、相続を承認したことになってしまい相続放棄をすることができなくなります。相続財産の調査をすると意外と時間的な余裕はありません。相続放棄を考えている方は速やかに弁護士までご相談ください。期間を伸ばす手続きも可能です。
相続放棄の熟慮期間の詳細については下記の関連記事をご確認ください。
相続放棄後の相続財産の隠匿・消費について
相続放棄をした後であっても、相続財産を隠匿・消費すると相続放棄をしたとみなされてしまいます。相続放棄をしても相続放棄の時に現に占有している相続財産については他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで管理する義務があります。何らかの問題が起きてしまう前に引き渡しを行うようにしましょう。
まとめ
以上、相続放棄の前後でやってはいけないことや注意点について解説いたしました。相続財産を処分してしまってもケースによっては相続放棄できることもあります。お悩みの方は専門家である弁護士にご相談下さい。相続放棄をするには申立書や必要書類を揃えて家庭裁判所に相続放棄の申述を行い受理されることが必要ですが、この手続きを弁護士に依頼することも可能です。
【記事監修者】 弁護士法人しらと総合法律事務所・代表弁護士 白土文也 (しらとぶんや) 第二東京弁護士会所属 中央大学法学部法律学科卒業 【代表弁護士白土文也の活動実績】 ・相続弁護士基礎講座(弁護士向けセミナー)講師(レガシィクラウド動画配信) ・ベンナビ相続主催「相続生前対策オンラインセミナー」講師 ・弁護士ドットコム主催「遺産相続に関する弁護士向けセミナー」登壇 その他、取材・講演多数 弁護士のプロフィールはこちら |
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